「AI医療機器はもう実用化されている」という話と、「現場では何も変わっていない」という実感。この二つのあいだには、かなり大きな溝があります。そしてその溝は、実は数字で埋められます。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)は、プログラム医療機器の製造販売承認品目一覧を公表しています。2026年3月31日時点で、承認は187件。そのうちAIを活用した医療機器は65件です。
この65件を分野別に見ると、内訳はかなり偏っています。画像解析系が約52件で、全体の約8割。X線用ワークステーション16件、内視鏡14件、汎用画像ワークステーション6件、手術支援5件、超音波3件、MR 2件。残る13件ほどが心電図や脈波といった生体信号系です。
そして、理学療法士・作業療法士にとって重要なのはここからです。この一覧を「転倒」「姿勢」「運動器」で検索すると、該当は0件。「歩行」でヒットするものは、すべて電気刺激装置(ウォークエイド等)とHAL医療用下肢タイプ——つまりロボットであって、プログラム医療機器ではありません。
整形外科領域のAIは、富士フイルムの肋骨骨折検出プログラム FS-AI691型(承認番号30300BZX00244000、2021年9月1日)が実質的にほぼ唯一です。骨密度AI・骨年齢AIの承認品はありません。
リハビリテーション領域で唯一のAI承認品はリモハブ CR U(30700BZX00131000、2025年6月23日)ですが、これは遠隔心臓リハビリテーションであって、運動器のものではありません。
つまり、AI医療機器はたしかに実用化されているが、それは主に画像診断の領域であって、私たちの領域は制度上まだ空白なのです。
「では、展示会で見たあの製品は何なのか」
ここで多くの方が引っかかると思います。学会の企業展示に行けば「AI歩行解析」「AI姿勢評価」の製品は普通に並んでいる。パンフレットには「医療機器」と書いてある。承認ゼロという話と、どう整合するのか。
答えは、「医療機器」という言葉が、実は3段階のまったく違うものを指しているからです。承認・認証・届出。この3つは日常会話ではひとまとめにされますが、行政の関与の度合いがまるで違います。そして、この違いを知らないまま導入すると、性能の裏づけを取り違えます。
同じことは、自分たちで作る側にも当てはまります。院内で使う評価アプリ、自費事業で提供するチェックツール——これらが医療機器に該当するかどうかは、技術の中身ではなく「何を標榜するか」だけで決まります。しかも厚生労働省の公式事例集を読むと、「リハビリテーション」という語を使った瞬間に該当側へ倒れる構造になっている。知らずに踏み込むと、無承認医療機器の提供になりかねません。
以下では、市販の「AI歩行解析」が制度上どう扱われているのか、承認・認証・届出の見分け方、制度側(IDATEN・二段階承認・DASH for SaMD 2)で実際に何が進んだのか、令和8年度診療報酬でSaMDがどう評価されているのか、そして自作ツールが医療機器になる一線を、公式事例245件から具体的に整理していきます。
