キャリアの話は、感覚ではなく実数から始めたほうがいい。まず、いま公表されている数字を並べます。
厚生労働省の職業情報提供サイトjob tagは、理学療法士の賃金(年収)を全国443.6万円と公表しています。出典は令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工したもの。同ページには労働時間157時間、平均年齢36.2歳も併記されています。
元データにあたると、令和7年賃金構造基本統計調査の職種小分類「理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士」(一般労働者・企業規模計)は、男女計できまって支給する現金給与額 309.9千円、年間賞与その他特別給与額 717.2千円、平均年齢36.2歳、勤続年数8.4年、労働者数279,650人。男性は325.1千円/766.9千円、女性は292.7千円/660.6千円です。
そして、同じjob tagのページには、もう一つ目を引く数字があります。ハローワーク求人統計(令和7年度)で、有効求人倍率4.67。求人賃金(月額)27.6万円、対前年度差プラス0.6です。
求人は1人あたり4.67件ある。それなのに、平均年収は443.6万円で、月額の求人賃金は27.6万円。
普通の労働市場の感覚なら、これはおかしい。4倍以上の求人があるなら、賃金は上がるはずだからです。
この矛盾の正体を理解しないまま「スキルを身につけよう」と走ると、たいてい報われません。認定資格を取っても、症例発表を重ねても、手技のセミナーに通っても、給与明細がほとんど動かなかった——そういう経験をした方は多いと思います。それは努力が足りなかったからではありません。努力していた場所が、そもそも金額の動かない場所だったからです。
そして、AIの話も同じ罠にはまりえます。「これからはAIだ」と言われて講座に通い、プロンプトのコツを覚え、それで何も変わらない——という道は、すでにはっきり見えています。
一方で、AIスキルに市場が大きな値をつけているのも事実です。全産業のデータでは、AIスキル保有者の賃金プレミアムは62%という数字が出ています。ただし、この数字を療法士の年収にそのまま掛け算することはできません。なぜできないのか、そしてそれでもなぜ機会になるのか——ここを取り違えると、方向ごと間違えます。
以下では、求人倍率4.67と年収443.6万円が同居する構造を供給側の実数から解きほぐしたうえで、療法士にとってのAIリテラシーを4段階に分け、多くの人が止まっている段階、身につける順番、そして身につけた価値が実際に現金になる3つの経路を具体的に示します。
先に結論の骨格だけ言っておくと、こうです。効くのはAIスキルそのものではありません。「臨床が分かり、かつAIが分かる」という掛け算の希少性です。 そして多くの人は、その掛け算のうちAI側だけを、しかもいちばん値のつかない段階だけを、熱心に磨いています。
