• 米国CMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)が2026年1月、全国6州でAI活用の医療事前承認パイロット「WISeR」を開始しました。
  • JAMA(2026年10月26日付)に掲載された研究では、開始後3か月で硬膜外ステロイド注射などの対象医療行為が非パイロット州と比べて最大21%減少したとされています。
  • 削減された医療が「不要だったのか、必要だったのか」は現時点では判断できないと研究者が明記しており、今後の患者アウトカムの追跡調査が求められています。

事実の整理

2026年1月1日、米国の高齢者向け公的医療保険であるメディケアに、WISeR(Wasteful and Inappropriate Service Reduction)と呼ばれる新たなパイロットプログラムが導入されました。アリゾナ、ニュージャージー、オハイオ、オクラホマ、テキサス、ワシントンの6州を対象に、6年間実施される計画とされています。

WISeRでは、詐欺・無駄・乱用が疑われる可能性があるとして選定された41の医療行為について、事前承認が義務づけられています。審査は民間のテクノロジー企業が担い、AIを活用した審査プロセスを通じて、防いだ医療費の25%を報酬として受け取る仕組みとされています。

ミネソタ大学のHannah T. Neprash准教授とブラウン大学のMichael Barnett教授らの研究チームは、全米3億人以上の患者データを含む電子カルテ統合データベース(Epic Cosmos)を活用し、WISeR開始前の2年間と開始後の6か月間にわたる医療行為件数の変化を分析しました。その結果が2026年10月26日付のJAMAに掲載されました。

主な結果は以下の通りとされています。

  • 硬膜外ステロイド注射(対象行為の中で最も件数が多い): 非パイロット州との比較で約15%減少。開始直後の3か月(2026年1〜3月)では約21%の減少が確認されました。
  • その他の対象医療行為: 全体で約20%減少し、開始後3か月では同じく約21%の減少が認められています。
  • WISeRの候補に挙がりながら最終的に対象外となった医療行為では有意な変化は認められなかったとされており、減少効果はWISeR導入によるものと判断されています。

ただし、開始後4〜6か月目にかけては減少幅が縮小し(硬膜外注射は約9%まで回復)、担当医が新しい書類手続きに適応してきた可能性が研究チームによって指摘されています。

Neprash准教授は取材に対し、「従来のメディケアは事前承認をほぼ必要としない形で運用されてきたため、WISeRは高齢者の医療アクセスにとって大きな変化を意味します。初期データでは、パイロット州の対象サービスに即座の影響が現れていることが確認されています」と述べています。その一方で「提供されなかった医療が不要だったのか、必要だったのかという問いに現時点では答えられない」とも強調しており、患者アウトカム・臨床家の負担・メディケア支出への影響を継続的に監視する必要があるとしています。

臨床家にとっての意味

事前承認(Prior Authorization)とは、特定の医療行為や処方薬について、保険者が費用を支払う前に医療の必要性を確認するプロセスです。米国では理学療法士・作業療法士の治療に対しても広く適用されており、臨床現場では承認取得のための書類作業が大きな負担となっていることが知られています。

今回のWISeRが主たる削減対象としたのは硬膜外ステロイド注射・神経刺激装置埋め込み・膝関節鏡手術・皮膚代替材といった侵襲的な処置であり、リハビリテーション自体が直接の対象になっているわけではありません。しかし、これらの処置はリハビリテーション治療の代替あるいは前段階として行われることも少なくないため、削減の影響が患者の治療経路に波及する可能性は否定できません。

現時点で言えることは次の通りです。AIを活用した医療事前審査は、少なくとも短期的には医療行為件数を削減する実効性を持ちうることが、大規模データで初めて示されました。また、その効果は時間の経過とともに弱まる傾向があり、現場の適応が一定の役割を果たしている可能性があります。

まだ言えないこととしては、削減された医療行為が患者にとって不要だったのか、必要だったにもかかわらず阻まれたのかは現段階では評価できません。患者の治療結果・QOL・長期的な医療コストへの影響は今後の追跡調査を待つ必要があります。日本の医療・リハビリ制度への直接的な影響については、制度の違いから現時点では推測の域を出ません。

CMSは今後6年間のパイロットを継続しながら、同モデルを他の医療分野(緊急搬送ヘリ、がん治療、心臓カテーテル、高度画像診断など)へ拡大するかどうかを検討しているとされています。AIが医療アクセスの「門番」として機能するこの仕組みの動向は、世界的な医療AI活用の方向性を示す事例として、日本のセラピストにとっても注目に値します。

出典

  1. Medicare's prior-authorization pilot test led to an immediate drop in use of services(MedicalXpress, 2026年10月27日)
  2. 11月4日(水)vol.163:JAMA、Medicareの「AIで事前承認」試験は開始3か月で対象の医療行為を21%減らした(加藤浩晃のヘルスケアイノベーション通信, 2026年11月3日)

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