外来リハの一場面を想像してください。変形性膝関節症の70代の患者さん。大腿四頭筋の萎縮を追いたくて、あなたはプローブを大腿前面に当て、画面に映る大腿直筋の輪郭を見つめます。「先月より薄くなった気がする——いや、プローブの圧が強すぎたか?」。フリーズした画像にキャリパーを置き、筋厚を測る。数ミリの差が出たが、それが本当の変化なのか、当て方と測り方のブレなのか、確信が持てない。翌週、別のスタッフが測ると、また違う数字が返ってくる——運動器エコーを臨床で使い始めたセラピストなら、誰もが一度は突き当たる壁だと思います。
この「測る人によってブレる」「輪郭のトレースに時間がかかる」という2つの壁に対して、AI(深層学習)による自動計測・自動セグメンテーションという答えが急速に形になりつつあります。パノラマ画像から筋断面積を4秒で切り出すツール、筋厚・羽状角・筋束長を動画からまとめて推定するオープンソース、介護施設でのサルコペニア判定精度をラジオミクスで引き上げた研究、そして腰痛と関わりが深い胸腰筋膜そのものを自動抽出する試み。この記事では「エコー AI 評価」「超音波 筋 AI 自動計測」を検討するセラピストに向けて、①運動器エコーの現在地、②実在論文6本の個別レビュー、③測定の信頼性の読み方、④臨床導入の実際(機器・資格・法的範囲)、⑤限界、の順に整理します。先に要約すれば、筋の自動計測は「手動と同等の精度・桁違いの速さ」に到達しつつあるが、外部検証と標準化はまだ途上——道具の性能よりも、画像の質と運用の設計が成果を分ける段階です。
なお、リハビリ領域のAI全体の見取り図はAIと理学療法士・セラピストの関わり方の記事で、AIによるリスク予測の考え方はAI転倒予測の記事で扱っています。本記事はエコーという「評価デバイス」にAIがどう入り込むかに焦点を絞ります。
運動器エコーの現在地——セラピストにとってのエコー、その強みと弱み
運動器(筋骨格系)エコーは、この10年でセラピストにとって一気に身近になりました。装置の小型化と低価格化が進み、ポケットサイズのワイヤレスプローブも登場。放射線被曝がなく、ベッドサイドで繰り返し使え、収縮する筋や滑走する組織をリアルタイムに動画で観察できる——リハビリテーションとの相性は、画像装置の中でも際立って良いと言えます。研究の世界でも、筋厚(muscle thickness)・筋断面積(ACSA:anatomical cross-sectional area)・羽状角・筋束長・エコー輝度(echo intensity)といった指標が、筋力や筋量の代理指標、トレーニング効果の判定、サルコペニアのスクリーニングに使われてきました。
一方で、臨床現場に定着させようとすると3つの壁に突き当たります。第1は操作者依存性。プローブの位置・傾き・圧、装置のゲインや深度の設定で画像は大きく変わり、経験の差がそのまま画質と測定値の差になります。第2は解析の手間。フリーズ画像に手動でキャリパーを置き、輪郭をトレースする作業は1枚あたり数分かかり、多部位・多時点の追跡では現実的な負担になります。第3は解釈の難しさ。測った筋厚が「先月より2mm薄い」として、それが誤差の範囲なのか真の変化なのかを判断するには、測定の信頼性(ICCやSEM)の知識が要ります。
AIが最初に切り込んだのは、この3つのうち第2の「解析の手間」です。深層学習によるセグメンテーション(画像の中から筋や筋膜の領域をピクセル単位で切り出す技術)は、手動トレースを数秒に短縮し、ついでに「誰が解析しても同じ結果」という客観性をもたらします。さらに近年は、人の目では定量化しきれないテクスチャ情報を数百の特徴量として抽出するラジオミクスが、第3の「解釈」の領域にも踏み込み始めました。ただし第1の壁——そもそも良い画像を撮る技術——はAIでは代替されません。むしろ後述するとおり、AIの誤予測は低品質画像で集中的に起こるため、プローブワークの価値はAI時代にこそ上がります。この構図を頭に置いて、個別の論文を見ていきましょう。
論文の選び方——選定基準の明示
本記事の6本は次の基準で選びました。①PubMed(E-utilities API)で書誌情報とアブストラクトを取得し、記事中の数値を原文アブストラクトと照合できた実在論文であること。②システマティックレビューまたは検証データセットを持つ手法開発・診断精度研究を優先し、発表年は直近5年(2022〜2025年)に限定したこと。③MRI・CTではなく超音波(Bモード)を入力とする研究であること。④対象が偏らないよう、筋断面積・筋構造(筋厚・羽状角・筋束長)・領域全体の俯瞰・サルコペニア診断(従来指標とAI強化の対比)・筋膜と、評価対象と場面を分散させたこと。⑤当サイト既刊のAI記事群で扱った文献と重複しないこと。各論文には「研究の限界」を必ず1文添えます。
エビデンスレビュー——実在論文6本を1本ずつ読む
論文1:Ritsche et al. 2022(Medicine & Science in Sports & Exercise)——DeepACSA:筋断面積の自動セグメンテーション
何を調べたか。 大腿直筋・外側広筋・腓腹筋内側頭/外側頭のパノラマ超音波画像から、筋の解剖学的断面積(ACSA)を自動で切り出す深層学習ツール「DeepACSA」の開発研究です。153名(平均38.2歳、範囲13〜78歳)から収集した1,772枚の画像で筋ごとの畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を訓練し、未使用のテストセットで手動解析および半自動アルゴリズムと比較しました。
何が分かったか。 誤予測画像を除外した後の手動解析との一致は、大腿直筋でICC 0.989(95%CI 0.983–0.992)・平均差0.20cm²、外側広筋でICC 0.97・平均差0.85cm²、腓腹筋でICC 0.98・平均差0.43cm²と、いずれも高い水準でした。解析時間は1枚あたり4.0±0.43秒。ただし誤予測の発生率は筋によって3.3%(大腿直筋)から12.3%(腓腹筋)まであり、誤予測は主に低品質画像で発生しました。
臨床でどう使うか。 「手動トレースと同等の断面積が、数分ではなく4秒で得られる」ことを示した代表例で、筋萎縮の経時追跡やトレーニング効果判定のボトルネックだった解析コストを実質ゼロに近づけます。同時に、この論文はAIの成否は撮像の質で決まることを数字で示しています。1割前後の誤予測が低品質画像に集中した——つまり、プローブワークと画像の最適化という「人の技術」が、自動化の前提条件として残るのです。
研究の限界。 誤予測を除外した後の性能である点に注意が必要で、実運用では出力を人が目視確認して弾く工程が不可欠です(著者らも低品質画像での不正確さを明示しています)。
論文2:Ritsche et al. 2024(Ultrasound in Medicine & Biology)——DL_Track_US:筋厚・羽状角・筋束長を画像と動画から全自動推定
何を調べたか。 Bモード画像から筋束と腱膜を検出し、筋厚・羽状角・筋束長という筋構造(muscle architecture)のパラメータを全自動で推定するオープンソースツール「DL_Track_US」の開発・検証研究です。2種類のニューラルネットワーク(古典的U-NetとVGG16事前学習エンコーダ付きU-Net)を訓練し、未使用テストセットで手動解析・既存の半自動/自動手法(SMA・UltraTrack)と比較しました。
何が分かったか。 静止画では、筋束長の平均差は既存自動法(SMA)と5.1mm、手動解析と−2.4mm。羽状角の手法間差は1.5°以内、筋厚の平均差は1mm未満に収まりました。動画では既存のUltraTrackと結果が重なり、ICCは0.19〜0.88の範囲。表在の複数筋に対応し、ユーザーインターフェース・全コード・訓練データが公開されています。
臨床でどう使うか。 筋厚1mm未満・羽状角1.5°以内という差は、手動計測の検者間誤差と同水準かそれより小さく、「人の代わりに数える」道具としては十分な精度です。しかも無償のオープンソースなので、研究目的なら今日から試せます。一方、動画解析のICCが0.19まで下がり得るという報告は正直で、収縮中の動的な筋束追跡はまだ発展途上——静止画の形態計測から使い始めるのが現実的です。
研究の限界。 検証は健常者中心の画像セットで行われており、萎縮筋・高度な脂肪浸潤・術後例など臨床で出会う「難しい画像」での性能は保証されていません。
論文3:Getzmann et al. 2024(La Radiologia Medica)——運動器エコーAI研究16本のシステマティックレビュー
何を調べたか。 運動器超音波におけるAI利用を、アルゴリズムの種類と検証戦略に注目して系統的にレビューした研究です。2024年1月までの文献269本から、ヒトを対象とし倫理承認を得た16本(2020〜2023年発表)を組み入れました。
何が分かったか。 16本のうち11本(69%)が診断予測またはセグメンテーションを目的とし、11本(69%)が深層学習、3本が従来型機械学習、2本が両方を使用。交差検証を使ったのは6本(38%)で、独立した内部テストデータでの臨床的検証を報告したのは9本(56%)。そして外部データセットでの臨床的検証を行った研究はゼロでした。
臨床でどう使うか。 この分野の「地図」と「体温」を一度に教えてくれる論文です。研究は増えているが、別の施設・別の装置・別の操作者で性能を確かめた研究がまだ1本もない——これが2024年時点の運動器エコーAIの正味の現在地です。製品デモで「精度99%」という数字を見たら、「それはどのデータで、誰が撮った画像で検証した数字ですか」と問う根拠になります。エコーは装置メーカーと操作者で画が大きく変わるモダリティだけに、外部検証の欠如はCTやMRIのAI以上に重いと読むべきです。
研究の限界。 組み入れが16本と少なく異質性も大きいため定量統合はできておらず、個々の課題(腱・筋・神経など)ごとの精度の相場観までは示せていません。
論文4:Fu et al. 2023(Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle)——エコーによるサルコペニア診断精度のシステマティックレビュー+メタアナリシス
何を調べたか。 筋エコーがサルコペニア診断にどこまで使えるかを、診断精度研究17本・2,143名(平均年齢52.6〜82.8歳)で統合したシステマティックレビュー+メタアナリシスです。7,332本の文献をスクリーニングし、二変量ランダム効果モデルで感度・特異度・SROC曲線下面積(AUC)を統合しました。
何が分かったか。 最もよく測られていた指標は筋厚で、腓腹筋の筋厚はSROC-AUC 0.83(8研究)、大腿直筋の筋厚は0.78(5研究)と中等度の診断精度を示す一方、大腿四頭筋全体の筋厚は0.64と低精度でした。エコー輝度(EI)単独はAUC 0.43〜0.69と低く、筋断面積とエコー輝度の組み合わせは単独よりも精度が高いという結果です。なお、組み入れ研究はすべてバイアスリスク「高」と判定されました。
臨床でどう使うか。 AI以前に「エコーでサルコペニアをどこまで拾えるか」の基準線を与えてくれる論文です。measuring siteの選択が精度を大きく左右する(腓腹筋・大腿直筋は使える、四頭筋全体の合算は弱い)こと、量の指標(筋厚・断面積)と質の指標(輝度)を組み合わせるべきことは、AIツールを使うかどうかに関わらず明日の評価設計に直結します。そして「単独指標では中等度止まり」という天井が、次の論文5でAIがどこを引き上げたかを読む物差しになります。
研究の限界。 対象集団・参照基準・測定方法が研究間で大きく異なり全研究が高バイアスリスクのため、統合値をそのまま自施設のカットオフに流用することはできません。
論文5:Fu et al. 2025(Journal of the American Medical Directors Association)——ラジオミクス×機械学習でサルコペニア検出を強化する
何を調べたか。 中国の介護施設15か所の入所者628名を対象に、大腿の筋(大腿直筋・中間広筋・大腿四頭筋)のエコー画像から、従来指標(筋厚+エコー輝度)モデル、ラジオミクス(画像テクスチャの定量特徴)モデル、統合モデル(従来指標+ラジオミクス+年齢・性別・BMI)を機械学習5アルゴリズムで構築し、診断精度を比較した研究です。サルコペニア診断はAWGS 2019基準、データは訓練70%/検証30%に分割されました。
何が分かったか。 サルコペニア有病率は61.9%。検証セットでのAUCは、従来指標モデルが大腿直筋0.70・中間広筋0.73・大腿四頭筋0.75にとどまったのに対し、ラジオミクスモデルは0.76〜0.78、統合モデルは大腿直筋0.85(95%CI 0.79–0.91)・中間広筋0.81・大腿四頭筋0.83まで向上しました。アルゴリズムでは一貫してロジスティック回帰が最良で、統合モデルは較正と臨床的有用性(決定曲線分析)も良好でした。
臨床でどう使うか。 論文4が示した「従来のエコー指標では中等度止まり」という天井を、同じ研究グループがAIでAUC 0.8台前半まで引き上げた——分野の進み方がきれいに見える組み合わせです。示唆は2つ。第1に、伸びしろは複雑なアルゴリズムではなく入力情報の豊かさにあったこと(勝ったのは最も単純なロジスティック回帰でした)。第2に、それでもDXAやBIAの置き換えではなく、装置を持ち込みにくい介護現場でのスクリーニング強化という位置づけであること。ベッドサイドで撮った1枚から、より確度の高い「精査に回すべき人」の選別ができる未来像です。
研究の限界。 単一国・介護施設集団(有病率61.9%と高い)での内部検証にとどまり、有病率が低い地域在住高齢者や日本の現場での性能は外部検証されていません。
論文6:Bonaldi et al. 2025(BMC Medical Imaging)——胸腰筋膜を深層学習で自動抽出する
何を調べたか。 慢性腰痛と関連が指摘される胸腰筋膜を、エコー画像から自動セグメンテーションする研究です。腰痛を有する被験者のエコー画像538枚でU-Netベースのネットワークを訓練・検証し、さらに別の施設・操作者・装置メーカー・患者群・プロトコルで収集した第2テストセットでも性能を確認しました(筋膜研究で著名なStecco氏らのグループによる報告です)。
何が分かったか。 訓練精度0.99・検証精度0.91、未使用テストセット(87枚)で精度0.94、平均IoU 0.82、Dice係数0.76を達成。注目すべきは、条件を変えた第2テストセットでこれらの指標が上回ったことで、2名の臨床専門家による目視でも予測の妥当性が確認されました。
臨床でどう使うか。 筋腹に比べて薄く、層構造が複雑な筋膜は、手動でも計測の再現性を確保しにくい対象です。その厚みや層の描出を自動化・標準化できれば、胸腰筋膜と慢性腰痛の記事で紹介したような「筋膜の形態・滑走と症状の関係」の研究や、徒手介入・運動介入の前後比較が、施設をまたいで比較可能になります。運動器エコーAIでは例外的に外部条件でのテストを行っている点でも、論文3が指摘した弱点への一つの回答例です。
研究の限界。 症例数・画像数が比較的小規模で、セグメンテーション(領域の切り出し)の成功が「筋膜の厚み・滑走の変化を臨床指標として使えること」まで保証するわけではありません。
測定の信頼性の読み方——ICC・SEM・Dice係数を臨床の言葉に翻訳する
6本の論文にはICC・SEM・Dice係数・AUCといった指標が並びました。AI×エコーの文献を自分で読むために、最低限の翻訳表を持っておきましょう。
ICC(級内相関係数)は「並び順の再現性」。 2つの測定方法(例:AIと手動)が対象者の大小関係をどれだけ一貫して捉えるかを示し、0.9以上でおおむね優秀とされます。DeepACSAの0.97〜0.989は「手動の代わりに使っても順位づけが狂わない」水準です。ただしICCは集団のばらつきに依存するため、均質な集団では低く出ます——DL_Track_USの動画解析でICCが0.19まで下がった一因もここにあります。
SEM(測定の標準誤差)と平均差は「1人の変化を読む物差し」。 ICCが高くても、個人の経時変化を判定するにはSEMが必要です。DeepACSAの大腿直筋でSEM 0.33cm²ということは、おおまかに言えばそれを下回る変化は測定誤差と区別できません。臨床で「先月より萎縮が進んだ」と言うためには、SEMから導かれる最小可検変化量(おおよそSEMの2〜3倍)を超える差が要る——この感覚が、冒頭のシーンの「数ミリの差をどう読むか」への答えになります。
DiceとIoUは「切り出しの重なり」。 セグメンテーション研究特有の指標で、AIが塗った領域と専門家が塗った正解領域の重なり率です。Dice 0.9以上なら輪郭がほぼ一致、0.7台は「概ね捉えているが境界にずれがある」水準。Bonaldiらの胸腰筋膜でDice 0.76というのは、筋膜という薄い構造の難しさを考えれば健闘ですが、そこから算出される「厚み」の誤差がどの程度かは別途の検証が要ります。
AUCは「識別のよさ」で、有病率に注意。 サルコペニアの診断精度で登場したAUCは、病気の人と病気でない人をどれだけ区別できるかの指標です。0.7台で中等度、0.8台でかなり良好という相場観はAI転倒予測の記事で述べたとおりですが、現場での的中率は有病率に強く依存します。論文5の集団は有病率61.9%——陽性的中率が高く出やすい条件です。有病率が2〜3割の外来集団に持ち込めば、同じAUCでも「陽性」の外れは増えます。
臨床導入の実際——機器・資格・法的範囲・運用設計
機器とソフトウェア:何がどこまで使えるのか
研究で使われたDL_Track_USのようなオープンソースツールは無償で入手できますが、これらは研究用ツールであり、医療機器としての承認を受けたものではありません。一方、装置メーカーが提供する自動計測機能(自動トレース・自動筋厚計測など)が医療機器プログラムとして組み込まれる流れも進んでいます。臨床での位置づけは「承認された機器・機能か」「研究用か」で大きく異なるため、導入時にはツールの規制上の位置づけを必ず確認してください。研究用ツールを臨床判断の根拠にすることは避け、教育・研究・測定の練習といった用途から始めるのが安全です。
資格と法的範囲:一般論としての整理
超音波検査を「誰が」「何の目的で」行えるかは、職種・国・施設によって扱いが異なります。日本では、超音波は放射線を用いないため放射線関連法規の直接の対象ではありませんが、「診断」は医師の業務であり、セラピストがエコーを用いる場合は診断ではなく評価・観察——すなわち関節や筋の状態を把握し、運動療法や徒手療法の効果判定に役立てる目的——として位置づけるのが一般的な整理です。理学療法士・作業療法士・鍼灸師・柔道整復師それぞれの業務範囲におけるエコー使用の可否や条件については、職能団体や学会の見解、所属施設の方針、医師の指示体系によって運用が異なるため、本記事では断定を避けます。導入前に、①所属施設・開設者の方針、②関連学会・職能団体の最新の見解、③保険診療か自費かの別、を確認することを強く勧めます。触診と組み合わせた評価技術としての位置づけは触診の基本ランドマークの記事も参考にしてください。
運用設計:AIを入れる前に決めるべきこと
論文レビューから導かれる運用の要点は3つです。第1に撮像プロトコルの固定。部位のランドマーク・肢位・プローブ圧・装置設定を文書化し、誰が撮っても同じ条件になるようにする。AIの誤予測は低品質・非標準画像で集中発生するため(論文1)、プロトコルの固定はAI導入の前提条件です。第2に目視確認の工程化。自動セグメンテーションの結果を必ず人が確認し、明らかな失敗を弾くルールを作る。論文1でも誤予測率は筋によって3〜12%あり、「全自動で無人」は現時点では成立しません。第3に自施設での小規模検証。外部検証ゼロという分野の現状(論文3)を踏まえれば、導入ツールと手動計測を自施設の20〜30例で突き合わせ、ICCとSEMを自前で見積もる工程は省けません。
限界と注意点——この知見で「言えないこと」
- 「AI計測で患者アウトカムが改善した」を示す研究は本記事の6本に含まれません。 いずれも計測の精度・効率の研究であり、自動計測を組み込んだリハビリが機能予後を改善するかは未検証です。
- 外部検証はほぼ皆無です。 論文3のレビューで外部データセットでの臨床的検証は0件。装置・操作者・集団が変われば性能が落ちる可能性を常に見込むべきです(論文6は例外的に外部条件で検証した好例です)。
- 報告された精度は「良い画像」の上での数字です。 誤予測除外後の性能(論文1)や研究環境での撮像品質を前提としており、忙しい臨床の1枚で同じ精度は保証されません。
- サルコペニアの診断はエコー単独では完結しません。 AWGSやEWGSOPの診断基準は筋力・身体機能を含みます。エコーAIが引き上げたのはスクリーニング精度であって、診断プロセスの置き換えではありません(論文4・5)。
- 研究用ツールと医療機器の境界に注意が必要です。 オープンソースツールの臨床使用は規制・責任の観点で未整理の部分が多く、施設としてのルール作りが先行します。
- 筋膜の自動抽出は「測れる」段階であり、「治療につながる」段階ではありません。 セグメンテーション精度と臨床的意味のある変化の検出は別問題です(論文6)。
まとめと「明日からの3ステップ」
本記事の要点を4つに圧縮します。第1に、筋の自動計測は断面積でICC 0.97以上・解析4秒(DeepACSA)、筋厚誤差1mm未満・羽状角1.5°以内(DL_Track_US)と、静止画の形態計測では手動と同等の水準に達しました。第2に、サルコペニア評価では従来のエコー指標がAUC 0.6〜0.8台前半で頭打ちだったところを、ラジオミクス+臨床情報の統合でAUC 0.8台前半〜半ばまで引き上げる道筋が見えました(Fu 2023・Fu 2025)。第3に、分野全体としては外部検証ゼロ(Getzmann 2024)という若さであり、性能の数字は「その研究の条件下で」という限定付きで読む必要があります。第4に、胸腰筋膜のような薄い軟部組織にも自動抽出が届き始め(Bonaldi 2025)、筋膜評価の標準化という新しい扉が開きつつあります。
明日からの3ステップを提案します。
- 撮像プロトコルを1部位だけ文書化する。 まず大腿直筋なら大腿直筋と決め、ランドマーク・肢位・プローブ圧・装置設定を1枚のシートにする。AI導入の有無にかかわらず測定の質が上がり、将来AIを入れるときの土台になります。
- SEMの感覚を自分の測定で掴む。 同じ対象を日を変えて2回測り、自分の測定のブレ幅を見積もる。「何mmの変化なら本物と言えるか」を数字で言えるようになることが、AI出力を評価する力にも直結します。
- オープンソースツールを研究・学習用途で触ってみる。 DL_Track_USはコードと訓練データが公開されています。自分の撮った画像で試し、成功と失敗のパターンを見ることが、製品導入時の目利き力になります。
よくある質問
AIの自動計測があれば、エコーの操作技術は要らなくなりますか
逆です。本記事の論文が一致して示すのは、AIの誤予測は低品質画像で集中的に起こるという事実です(DeepACSAの誤予測は主に低品質画像で発生し、レビューでも画質標準化が課題とされています)。AIは「解析」を代替しますが「撮像」は代替しません。プローブワーク・ランドマークの触診・装置設定の技術は、AI時代にはむしろ「AIに食わせる入力の質を保証する技術」として価値が上がります。
サルコペニアのスクリーニングにエコーAIはもう使えますか
研究レベルでは統合モデルがAUC 0.8台に達しましたが(Fu 2025)、外部検証がなく、医療機器として承認された製品も限られるため、「明日から自施設で診断に使う」段階ではありません。現実的なのは、検証済みの従来指標——腓腹筋や大腿直筋の筋厚(Fu 2023でSROC-AUC 0.78〜0.83)——を標準化した手順で測り、筋力・身体機能の評価と組み合わせる運用です。AIはその精度を将来引き上げる位置づけと考えてください。
筋膜の癒着や滑走もAIで評価できるようになりますか
現時点で確立しているのは「胸腰筋膜の領域を自動で切り出せる」ところまでです(Bonaldi 2025、Dice 0.76)。厚みの定量や滑走性の動的評価をAIで標準化する研究はまだ初期段階で、「癒着の診断」を自動化できる段階ではありません。ただし、筋膜の形態と腰痛の関連自体は研究が蓄積しつつあり、胸腰筋膜と慢性腰痛の記事で整理したとおり、評価の標準化が進めば介入研究の質も上がると期待されます。
エコー以外のAI評価とはどう使い分ければよいですか
エコーAIの強みは「組織の形態・質」をベッドサイドで定量できること、スマホ動画AIの強みは「動作」を場所を選ばず定量できること、電子カルテ型AIの強みは「リスクの層別化」を測定なしで行えることです。動作分析AIはスマホAI動作分析の記事、リスク予測はAI転倒予測の記事で扱っています。評価対象(構造か、動作か、リスクか)で道具を選び、どれもプロトコルの固定と目視確認をセットにする——原則は共通です。
出典(すべてPubMed E-utilities APIで書誌・抄録を取得し数値を照合済み)
- Ritsche P, Wirth P, Cronin NJ, et al. DeepACSA: Automatic Segmentation of Cross-Sectional Area in Ultrasound Images of Lower Limb Muscles Using Deep Learning. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2022;54(12):2188-2195. DOI: 10.1249/MSS.0000000000003010(PubMed: 35941517)
- Ritsche P, Franchi MV, Faude O, et al. Fully Automated Analysis of Muscle Architecture from B-Mode Ultrasound Images with DL_Track_US. Ultrasound in Medicine & Biology. 2024;50(2):258-267. DOI: 10.1016/j.ultrasmedbio.2023.10.011(PubMed: 38007322)
- Getzmann JM, Zantonelli G, Messina C, et al. The use of artificial intelligence in musculoskeletal ultrasound: a systematic review of the literature. La Radiologia Medica. 2024;129(9):1405-1411. DOI: 10.1007/s11547-024-01856-1(PubMed: 39001961)
- Fu H, Wang L, Zhang W, et al. Diagnostic test accuracy of ultrasound for sarcopenia diagnosis: A systematic review and meta-analysis. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. 2023;14(1):57-70. DOI: 10.1002/jcsm.13149(PubMed: 36513380)
- Fu H, Luo S, Zhuo Y, et al. Enhanced Sarcopenia Detection in Nursing Home Residents Using Ultrasound Radiomics and Machine Learning. Journal of the American Medical Directors Association. 2025;26(11):105830. DOI: 10.1016/j.jamda.2025.105830(PubMed: 40882952)
- Bonaldi L, Pirri C, Giordani F, et al. Segmentation of the thoracolumbar fascia in ultrasound imaging: a deep learning approach. BMC Medical Imaging. 2025;25(1):164. DOI: 10.1186/s12880-025-01720-2(PubMed: 40375198)
※本記事は医療従事者向けの教育・情報提供を目的としたもので、特定の製品・アルゴリズムの効果や安全性を保証するものではありません。超音波機器およびAIツールの臨床利用は、各職種の業務範囲に関する最新の公式見解と各施設の規程、各臨床家の評価・判断のもとで行ってください。
