症例報告を書いてはみたものの、そこから学会にどう出すかで止まっている——これは相当に多いパターンだと思います。書くところまでは先輩に教わったけれど、「出す」と「通す」は別の技術で、そこを教わる機会がほとんどないからです。
そして厄介なことに、症例報告は内容が良ければ通る、というものではありません。実際には、臨床的に十分に価値のある症例が、抄録の書き方だけで落ちることがよくあります。逆に、ごく平凡な症例でも、書き方が整っていれば通ります。これは学会が不公平なのではなく、査読者が400字前後の抄録だけを見て判断しているという構造から来ています。
査読者はあなたの臨床を見ていません。抄録という400字の窓からしか、あなたの症例を見られない。だとすれば、こちらがやるべきことは明確です。その窓の中に、査読者が判断に必要とする情報を、必要な順番で置くこと。それだけです。
この記事では、演題を選ぶところから発表当日の質疑応答まで、通しの手順を整理します。「良い症例報告の書き方」そのものは別記事で扱っているので、ここでは「書いたものを、学会に通す」という一点に絞ります。
全体の流れと、逆算のスケジュール
まず、締切から逆算した現実的なスケジュールを置いておきます。多くの人が失敗するのは、締切1週間前に書き始めるからです。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 締切8週前 | 症例を決める/学会と演題区分を決める |
| 締切6週前 | 倫理的手続き(説明と同意、施設の規程確認)を開始する |
| 締切4週前 | 抄録の初稿を書く |
| 締切3週前 | 上司・先輩に見てもらう(1回目) |
| 締切2週前 | 修正して2回目のレビュー |
| 締切1週前 | 登録システムに入力する(提出はしない) |
| 締切3日前 | 提出する |
このうち、絶対に前倒しできないのが倫理的手続きです。症例報告では、患者さん本人への説明と同意(本人の状況によっては代諾者への説明と同意)が前提になり、施設によっては倫理審査委員会への申請が必要です。所属先の規程と、投稿先の学会の投稿規定の両方を確認してください。ここは間に合わなければ諦めるしかない項目なので、いちばん最初に着手します。
そして締切3日前に出すのは、システム障害と自分の体調のためです。締切当日は登録サイトが重くなります。
演題選びで、採否の半分は決まっている
書き方の前に、そもそもどの症例を出すかで勝負の半分がついています。通りやすい症例には、はっきりした共通点があります。
通りやすい症例の条件
- 「他の人にも起こりうる」問題を扱っている——極端に稀な症例より、よくある問題に対する新しい見方のほうが通ります。査読者は「この報告を読んで、明日の臨床が変わる人がいるか」を見ています
- 経過の中に「思い通りにいかなかった点」がある——順調に良くなった話は、実は情報量が少ない。予想と違ったところにこそ、共有価値があります
- 判断の根拠が示せる——なぜその評価をし、なぜその介入を選んだか。ここが書ければ、結果の大小は問題になりません
- 前後で比較できる指標がある——数値でなくても構いませんが、「何がどう変わったか」を第三者が追える形である必要があります
通りにくい症例
- 「うまくいった」だけの報告(考察が「効果があったと考えられる」で終わるもの)
- 介入が多すぎて何が効いたか分からないもの
- 評価が初回と最終回しかなく、経過が追えないもの
- 一般論の紹介が主で、その症例固有の判断が書かれていないもの
1つめが圧倒的に多い落選パターンです。成功例だから通ると思って書くと、まず落ちます。
