• 米国保険最大手Blue Cross Blue Shield Association(BCBSA)が2026年9月24日に分析を公表し、病院が導入したAIコーディングおよびアンビエントスクライブツールが2024〜2025年の2年間で9億4,200万ドルの追加医療費を生んだとされています。
  • AIが副病名(二次診断)を大量に記録することで入院ケースがより高い診療報酬区分に分類されているとされており、「診断の増加に対応した治療の増加が見られない」という点が問題視されています。
  • アンビエントスクライブ(医師・患者の会話を自動で記録するAI)は理学療法士・作業療法士を含む幅広い臨床家に普及しつつあり、今回の報告は日本を含むリハビリ現場にとっても他人事ではありません。

事実の整理

BCBSAが公表した分析の概要

Blue Cross Blue Shield Association(BCBSA)は2026年9月24日、傘下31社・被保険者1億人超のデータをもとにした分析を発表しました。それによると、2023年を基準とした場合、2024〜2025年の2年間で病院の請求額が累計9億4,200万ドル増加しており、そのうち6億5,300万ドルが「AIツールによって増加した二次診断」に起因するとされています。

具体的には、大腸手術のケースで「部分的腸閉塞」の記録が55%増加し、「過剰な胃酸分泌を伴う診断」が33%増加したとされています。しかしBCBSAは、対応する治療(たとえば輸血など)の頻度が同等に増加していないことも指摘しています。

BCBSAのデータサイエンス担当上級副社長ルーク・チャルカー氏は「診断と治療の乖離は、AIが本当に重症な患者を発見しているのではなく、請求可能な病名を増やしている可能性を示唆している」と述べています。

AI診療支援ツールの仕組み

今回の調査で焦点となったツールは主に2種類とされています。

一つ目はAIコーディングツールです。過去の電子カルテを自動でスキャンし、過去に記録されなかった副病名を発見して請求コードに反映するシステムです。

二つ目はアンビエントスクライブです。診察室での医師と患者の会話をリアルタイムで聴取し、医療記録を自動生成するツールです。医師の記録負担を大幅に削減できる反面、AIが会話から拾い上げた情報をカルテに記載することで、従来より多くの病名が記録される可能性があるとされています。

病院側の見解

米国病院協会など病院側は「AIが適切に記録されていなかった病名を正確に文書化できるようになった結果だ」と主張しています。これは診療の質向上という観点から一定の正当性があり、現時点では「AI過剰コーディング」なのか「AI正確コーディング」なのかを明確に判断することは難しいとされています。

臨床家にとっての意味

セラピストへの影響——今言えること

理学療法士・作業療法士・柔道整復師・鍼灸師の現場においても、アンビエントスクライブをはじめとするAIドキュメント支援ツールの導入が進みつつあります。今回の報告から、現時点で言えることを整理します。

「AIが書いたカルテ」の内容はセラピスト自身が最終確認する責任があります。アンビエントスクライブが自動生成した記録には、会話中に言及された病名や所見が過度に盛り込まれる可能性があります。AIはあくまでも補助ツールであり、記載内容の正確性に対する法的・倫理的責任は使用者である臨床家にあります。

「記録が増えること」と「ケアの質が上がること」は別問題です。BCBSAの指摘の核心は「診断名が増えても治療内容が変わっていない」という乖離にあります。リハビリ現場でも、AIが所見や問題点を多く記録したとしても、それが実際の治療計画や介入内容に反映されていなければ、同様の乖離が生じる可能性があります。

一方で、AIが「見落としを拾う」という側面もあります。病院側が主張するように、経験の少ないスタッフや多忙な環境では見落とされがちな副所見をAIが指摘することで、診療の質が向上する事例もあるとされています。この点は一概に否定できません。

まだ言えないこと

今回の報告はあくまでも米国の入院請求データに基づく分析であり、日本の診療報酬制度や保険環境に直接適用できるわけではありません。また、アンビエントスクライブがリハビリテーション外来や在宅訪問の現場での記録・請求に与える具体的な影響については、今後さらなる研究や事例の蓄積が必要です。「AIが必ず不正なコーディングを促す」という断定もできず、適切な運用ガイドラインの整備が今後の課題といえます。

出典

  1. AI-Generated Medical Coding Adds Nearly $1 Billion to Blue Cross Costs(PYMNTS.com, 2026年9月24日)
  2. AI tools are driving up health insurance costs by nearly $1 billion, Blue Cross study finds(TechStartups, 2026年9月24日)
  3. Blue Cross: Hospital AI Coding Added $942M Costs(Technology.org, 2026年9月25日)

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