• 厚生労働省が2026年9月29日に令和8年版厚生労働白書を公表し、AI・ロボット活用は医療・介護現場の生産性向上に「不可欠」と明記されています
  • 介護職の有効求人倍率3.98倍・看護職2.10倍、介護福祉士養成施設の定員充足率は約60%と、担い手不足の深刻さが具体的数値で示されています
  • 同時期の民間調査では、現在介護中の人の72.5%がAI・ロボット活用に前向きであることも報告されています

事実の整理

厚生労働省は2026年9月29日、「令和8年版厚生労働白書」を公表しました。テーマは「これからの医療・介護・福祉の現場で働くことを考える」で、2001年の発刊から数えて25冊目にあたります。

白書の第1部では、2040年を見据えた医療・介護・障害福祉の現場における課題と対応の方向性が整理されています。なかでも注目されるのは、「テクノロジー(ICT、AI、ロボット等)の活用による生産性向上」が主要テーマの一つとして明示されている点です。白書は「最先端技術の活用によりサービスの質を総合的に向上させることが不可欠」と記しており、AI・ロボット活用を政策上の重要課題として位置づけています。

白書が示した主な数値は以下のとおりです。担い手不足への不安について「感じる」「やや感じる」と答えた割合は70%超、テクノロジー導入への賛否については「賛成」「やや賛成」も同じく70%超とされています。有効求人倍率では、看護職が2.10倍、介護職が3.98倍と高い水準にあり、介護福祉士養成施設の定員充足率は約60%にとどまっています。

白書はこれらの数値をもとに、限られた人的資源を専門的・中核的業務へ振り向けるためにテクノロジーを積極活用することが、質の高いサービス継続の鍵であるとしています。

これに前後して2026年9月28日、福祉用具レンタル大手の株式会社ヤマシタが「介護AI・ロボット受容実態調査2026」を発表しました。45〜74歳の男女1,031人を対象に実施された調査によると、現在介護中の人の72.5%がAI・ロボット活用に前向きと回答しています。月額3万円であれば人型ロボットの利用を希望する人が63.9%に達したという結果も示されており、費用面の見通しが立てば活用意向が高まりやすいことが示唆されています。また、「費用がわからない」という不安が60.7%で最多であったとも報告されています。

臨床家にとっての意味

現時点で言えること

今回の白書は、国の政策文書として医療・介護現場へのAI・ロボット導入を明確に後押しする方向性を示したものとして位置づけられます。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリ専門職が働く現場も、この方向性の対象に含まれると考えられます。

特に注目されるのは、白書が「人手不足の解消」だけでなく「サービスの質の総合的向上」という言葉を用いている点です。これは、量的な補完だけでなく、テクノロジーを活用した評価・介入の精度向上についても、今後の政策の視野に入っていることを示唆していると読めます。

介護職の有効求人倍率が3.98倍という数値は、深刻な担い手不足の現状を端的に示しています。リハビリ専門職においても同様の傾向が見られており、少人数で質の高いサービスを提供するためのテクノロジー活用の重要性は、今後さらに増していくとみられています。

民間調査で介護経験者の72.5%がAI・ロボット活用に前向きという結果が出たことは、利用者・家族側からの受容性が想定以上に高い可能性を示す参考になります。現場のセラピストや介護士がテクノロジーを提案・活用する際、利用者側の心理的ハードルが以前より低くなっている場面も出てくるかもしれません。

まだ言えないこと

白書はあくまで政府の課題認識と方向性を示したもので、具体的な予算措置・制度設計・保険点数への反映などの詳細は今後の議論次第です。どのようなAI・ロボットが現場に導入されるか、費用負担の仕組みがどう整備されるかは現時点では決まっていません。

また、AI・ロボットの導入が必ずしも業務負担の軽減や職員の働きやすさ向上に直結するとは限らないことも指摘されています。導入の効果は施設の規模・形態・スタッフのリテラシーなどによって大きく異なる可能性があり、個別の現場での慎重な検討が欠かせません。

民間調査の72.5%という数値は、あくまで「前向き」という意向であり、実際の使用経験・有効性の評価とは異なります。費用・操作性・安全性について十分な情報提供がなされたうえでの判断ではないことに留意が必要です。

リハビリ専門職として、テクノロジーに何を任せられるか・任せるべきでないかを自分の臨床の文脈で考えるうえで、今回の白書は政策の現在地を確認する手がかりとなりうるものです。

出典

  1. 「令和8年版厚生労働白書」を公表します(厚生労働省, 2026年9月29日)
  2. 医療・介護の人手不足にAIは「不可欠」 7割以上が導入肯定的 厚生労働白書(産経新聞/Yahoo!ニュース, 2026年9月29日)
  3. 介護用品レンタルのヤマシタ、「介護AI・ロボット受容実態調査2026」を実施 介護中の72.5%が活用に前向き(PR TIMES, 2026年9月28日)

本記事は情報提供を目的としており、特定の製品・サービスの推奨や、治療効果の保証をするものではありません。