- MITとPurdue大学らの研究チームが、Transformerベースの拡散モデル(生成AI)とリアルタイム力覚フィードバックを組み合わせた脳卒中リハビリ支援ロボットを開発し、IEEE Transactions on Roboticsに論文が掲載されています。
- このシステムは実際の理学療法士の接触データから個々のセラピストの手技スタイルを学習し、患者の能力に応じて補助量を調整するとされています。
- 現時点での研究はドイツのミュンヘンで進行中であり、脳卒中患者を対象とした長期臨床試験の結果はまだ報告されていません。
事実の整理
2026年8月5日、MITは機械工学部のJohannes Lachner氏(現Purdue大学助教授)、Noah Geiger氏(元MIT訪問学生、現Robert Bosch GmbH)、Neville Hogan教授(MIT Newman Laboratory)らが開発した適応型リハビリロボットシステムをMIT Newsで発表しました。その後、MIT Technology Reviewが2026年10月20日に同研究を取り上げ、広く報道されています。
このシステムは、双腕ロボットにTransformerベースの拡散モデル(diffusion model)とリアルタイムの力覚センサーを組み合わせたものです。画像生成AIに用いられる技術と近い仕組みですが、動作パターンだけでなく「接触時の力や抵抗への応答」という物理的な相互作用も学習できる点が特徴とされています。
研究チームは、健常な被験者を対象とした予備試験で、腕の挙上や平面外へのリーチなど複数の動作を異なる支援量で実施するデータを収集しました。また、人間のオペレーターがロボットを遠隔操作しながら接触の多いタスクを行うデータも活用しており、Apple Vision Proがデータ収集の一部に用いられています。
臨床研究の段階では、ドイツのミュンヘン工科大学(TUM)Cristina Piazza研究室および外来リハビリ施設Pfennigparadeと共同で、理学療法士が力センサー付き手袋を装着して治療を行う様子を収集しています。このデータをもとに、個々の療法士の接触スタイルを再現するモデルの開発が進められているとされています。
論文タイトルは「Diffusion-Based Impedance Learning for Contact-Rich Manipulation Tasks」(IEEE Transactions on Robotics)です。資金提供はMIT–Novo Nordisk AI Postdoctoral Fellows Program、ドイツのKUKA Robotics、TUM Global Programが担っています。
研究を主導したLachner氏は「理学療法士に取って代わることが目的ではなく、療法士が届けられる範囲を広げることが狙い」と述べています(MIT Technology Review, 2026年10月20日)。
臨床家にとっての意味
この研究は、セラピストの仕事に直接関わる可能性があるという点で注目されます。以下、現時点で言えることと言えないことを整理します。
現時点で確認されていること
脳卒中は年間世界で約1,500万人が発症し、そのうち約500万人が長期的な機能障害を抱えるとされています(MIT News, 2026年8月5日)。理学療法士不足が患者のリハビリへのアクセスを制限しているという問題意識のもとで、このシステムは開発されています。
健常者を対象とした予備試験では、ロボットが患者の能力に合わせて補助量を調整するアプローチの実現可能性が示されたとされています。ドイツの施設では現在、理学療法士の実際の手技データ収集が進んでおり、個々のセラピストのスタイルを再現するモデルの開発が進行中です。
現時点では言えないこと
脳卒中後の患者を対象とした長期臨床試験の結果は、まだ報告されていません。リハビリ効果の有無や大きさに関する科学的な根拠は現段階では示されていないため、有効性の判断には次の試験の結果を待つ必要があります。実用化・製品化の時期も未定です。
研究チームは「以前に手技療法を受けた患者を対象とした長期臨床試験」を次のステップとして計画しているとされています。
理学療法士・作業療法士にとっては、「ロボットが自分の接触スタイルを学習し患者に届ける可能性」という新しい研究の段階として、今後の動向を注視する価値があると考えられます。また、理学療法士不足という社会的課題の文脈でこうした技術開発が進んでいることは、臨床現場にとって中長期的に無関係ではない動きと言えるでしょう。
出典
- Personalized physical therapy: Stroke rehabilitation powered by AI(MIT News, 2026年8月5日)
- Robotic therapy for stroke patients(MIT Technology Review, 2026年10月20日)
本記事は情報提供を目的としており、特定の製品・サービスの推奨や効果の保証をするものではありません。
