説明がうまい人を見ていると、話術が違うように見えます。けれど何人か観察して気づいたのは、うまい人ほど毎回ほとんど同じことを、同じ順番で言っているということでした。アドリブが上手いのではなく、型を持っていて、その型を場面ごとに使い分けている

逆に、説明に苦手意識のある人は、毎回ゼロから言葉を探しています。患者さんの目の前で言葉を組み立てながら話すので、話が長くなり、専門用語が混ざり、結論がぼやける。そして「うまく説明できなかった」という感触だけが残る。

この差は、才能ではなく手持ちの型の数です。そして型は書き出せます。この記事は、臨床で頻度の高い4場面について、そのまま声に出して使える逐語を並べたものです。丸暗記する必要はありません。1回自分の口で読んでみて、違和感のある言い回しだけ自分の言葉に置き換えてください。それだけで手持ちの型が4つ増えます。

全場面に共通する3原則

個別のスクリプトに入る前に、どの場面でも崩さない原則を3つだけ。

原則1:事実 → 解釈 → 提案 の順で話す。 いきなり解釈(「〇〇が原因です」)から入ると、押しつけになります。まず観察した事実を述べ、そこからの解釈を述べ、最後に提案する。この順番だけで、同じ内容が「決めつけ」から「説明」に変わります。

原則2:断定しない。ただし曖昧にもしない。 「治ります」は言えません。かといって「分かりません」では信頼されません。使うのは「〜と考えています」「〜を試して、変わるかを一緒に確認させてください」という言い方です。仮説であることを明示しつつ、検証の予定を具体的に示す。これが誠実さと頼りがいを両立させる唯一の言い方だと思います。

原則3:1回の説明で伝えることは3つまで。 人は聞いた話をほとんど覚えていません。4つ言えば全部が薄まります。3つに絞り、そのうち1つを必ず「患者さんの言葉」で言い返してもらう。理解の確認はここでしかできません。

図1 説明の型——事実・解釈・提案の3層

この3原則を踏まえて、以下では場面別のスクリプトを並べます。それぞれ基本形と、患者さんの反応が予想と違ったときの分岐をセットにしています。分岐まで用意しておくことが、実は一番効きます。基本形だけ準備していると、想定外の反応が来た瞬間に型が崩れて、元のアドリブに戻ってしまうからです。

扱う場面は4つです。(1) 痛みのしくみの説明、(2) 予後と見通しの伝え方、(3) 方針を変えることの伝え方、(4) 自費・院外サービスの提案。 どれも「言い方を一度も決めないまま、その場のアドリブで乗り切っている」人が多い場面で、だからこそ型を持った瞬間に差が出ます。

場面1:痛みのしくみを説明する

もっとも頻度が高く、もっとも失敗しやすい場面です。難しいのは、正確に話そうとするほど専門的になり、簡単にしようとするほど不正確になるからです。ここを乗り越える方法は一つで、「正確さ」を「その日その場で確かめた事実」に置き換えることです。難しい機序を説明しようとせず、目の前で起きたことだけで話を組み立てる。そうすると、簡単なのに嘘がない説明になります。

基本形(所要2分)

「今の痛みについて、私がどう見ているかをお話しさせてください。3つだけお話しします。

まず1つめ。さっき見せていただいた動きで、右にひねるときだけ痛みが出て、左は平気でしたよね(事実)。それと、私が骨盤を支えた状態でやると、痛みが軽くなりました(事実)。

2つめ。ここから考えると、痛みが出ている場所そのものが壊れているというより、その周りが本来分担するはずの動きを引き受けきれていなくて、一か所に負担が集まっている——そういう状態だと考えています(解釈)。支えると軽くなったのは、その分担が一時的に戻ったからだと思っています。

3つめ。なので、痛いところを揉んで治すというより、周りが動きを分担できるようにしていくのが今回の方針です(提案)。ここまでで、分かりにくかったところはありますか。」