3回目のリハビリが終わって、患者さんが帰ったあと。カルテの前で手が止まる——「変わっていない」。初回で立てた仮説どおりにやっているのに、痛みも動きも初回とほぼ同じ。次回、何をすればいいのか分からない。
このとき多くの人がやってしまうのが、「同じことを、もっと強く/もっと長く」です。同じ部位をもっと入念にほぐす、同じ運動の回数を増やす、時間を延ばす。効かなかった介入の量を増やすのは、いちばん自然で、いちばん危険な選択です。量の不足が原因である確率は、実は高くないからです。
もうひとつ多いのが、方針の全取っ替えです。腰が変わらないから今度は股関節、それも変わらないから今度は胸椎——と毎回変えていく。これも一見ちゃんと考えているようで、実際には何が効いて何が効かなかったのかが永久に分からなくなるやり方です。3回変えて偶然良くなっても、次の患者さんに活かせません。
必要なのは、「効果が出ない」を感覚ではなく型で分解することです。効果が出ない状態は、原因の種類ごとに4つに分かれます。そして型が決まれば、次の一手はほぼ自動的に決まります。悩む必要があるのは「どの型か」だけです。
「効果が出ない」を4つの型に分解する
まず、行き詰まりの正体を分けます。臨床で「変わらない」と感じる場面は、次の4つのどれかです。
型A:測っていない(変化は起きているが、指標が拾えていない) 実は変わっているのに、見ている指標が鈍くて検出できていない状態。痛みのNRSだけを見ていて、動作の質や生活の変化を見ていないときによく起きます。ここを型Bや型Cと取り違えると、効いている介入を捨ててしまいます。
型B:届いていない(介入が仮説の的に当たっていない) 仮説は合っているが、選んだ手技・運動がその組織や機能に届いていない状態。狙いは正しいのに手段がずれている、という一番よくある型です。
型C:仮説が違う(そもそも的の位置が間違っている) 組み立て直しが必要な型。ここに気づくのが遅れるほど、時間を無駄にします。
型D:臨床の外にある(介入では動かせない要因が支配的) 睡眠、仕事の負荷、心理社会的要因、内科的な問題、そもそも器質的に不可逆な変化——臨床の30分の外側にある要因が結果を決めている状態。医師への相談や他職種連携が必要になることもあります。
この4つの順番には意味があります。A → B → C → D の順に確かめるのが原則です。仮説を疑う(型C)前に、指標を疑い(型A)、手段を疑う(型B)。これを逆にすると、当たっていた仮説を捨てることになります。
初学者ほど、いきなり型Cを疑って方針を全部変えます。経験を積んだ人ほど、まず型Aを疑います。「本当に変わっていないのか」を先に確かめるのが、再評価の第一歩です。
順番を守る理由は、もう一つあります。確かめるコストが、AからDへ向かうほど高くなるからです。型Aの確認は問診3分で済みます。型Bはその場で介入して測り直す5分。型Cは評価の組み立て直しで、まるまる1セッションかかります。型Dに至っては、医師や他職種を巻き込む話になる。安くて速い確認から順に潰していくのが、単純に合理的なのです。
そしてもう一つ、順番を守ることには副次的な効果があります。患者さんへの説明がしやすくなることです。「まずここを確かめて、次にここを確かめて、それでも動かなかったので見立てを組み直します」——このように順番を持って動いていると、方針を変えるときの説明が「行き当たりばったり」ではなく「手順」として伝わります。ここは、治療そのものと同じくらい効きます。
