診療報酬改定は2年に一度、リハビリ専門職の働く環境を静かに、しかし確実に変えます。令和8年度(2026年度)改定も例外ではありません。単位の取り方、加算の要件、書類の様式、配置基準——現場の毎日は、中央で決まる点数表の上に載っています。

ところが多くのセラピストにとって、改定情報は「事務長から降ってくるお達し」であり、自分で読み解くものではありません。この記事では、個別の点数の解説ではなく、改定情報をどう読み、自分の働き方にどう引きつけて考えるかという「読み方の型」を提供します。この型は、令和8年度に限らず、この先のすべての改定で使えます。

なお、個別の点数・要件は必ず厚生労働省の告示・通知および所属施設の事務部門で最新の一次情報を確認してください。本記事は考え方の整理であり、算定実務の根拠として使えるものではありません。

なぜ「読み方」から始めるのか

改定のたびにSNSには「リハビリ崩壊」「追い風」といった両極端の言葉が飛び交います。しかし改定の実像は、ほとんどの場合その中間にあります。ある部門には逆風で、別の部門には追い風。同じ点数変更でも、急性期の総合病院と地域の診療所では意味がまったく違います。

だから必要なのは、誰かの結論をコピーすることではなく、自分の職場と自分のキャリアを座標にして改定を読む技術です。以下、3つの問いの順に読んでいきます。

問い1: 国はリハビリに何をさせたがっているのか——方向を読む

個別の点数の増減を見る前に、改定全体の「方向」を掴みます。診療報酬は、国が医療機関の行動を誘導するための価格設定です。点数が上がる領域は「もっとやってほしいこと」、要件が厳しくなる領域は「量より質を求めること」、点数が下がる領域は「抑制したいこと」を意味します。

近年の改定で一貫している大きな流れは、方向としては次のように整理できます。

  • 病院完結から地域完結へ: 入院期間の短縮と、退院後の生活を支える在宅・地域リハビリの重視
  • 量から質・アウトカムへ: 実施単位数そのものより、機能予後・生活への効果を問う仕組みの強化
  • 多職種連携と情報連携: 職種間・施設間で情報をつなぐ取り組みの評価
  • データによる説明責任: 実績データの提出・活用を前提にした評価体系

令和8年度改定の個別項目を見るときも、まず「この変更は上のどの流れの延長か」と位置づけてみてください。単発の変更に見えたものが、10年続く潮流の一歩だとわかると、対応の優先順位が変わります。潮流に沿った変更は、次の改定でさらに強化される可能性が高いからです。

問い2: 自分の職場のどの収益に効くのか——構造を読む

方向を掴んだら、次は自分の職場への影響を具体化します。ここで使うのは単純な問いです。「うちのリハ部門の収益は、どの算定項目で成り立っているか」

自分の部門の収益構造を知らないセラピストは、驚くほど多くいます。疾患別リハビリテーション料のどの区分が収益の柱か。回復期リハビリテーション病棟入院料なら、どの実績指数帯にいるのか。加算はどれを算定していて、その要件のうち自分の業務はどこを担っているのか。

これを知っていると、改定情報の読み方が一変します。点数表の変更一覧を眺めるのではなく、「うちの柱に触る変更はあるか」だけをまず確認すればよいからです。事務長や科長に次の3つを聞いてみてください。

  1. 当院のリハ部門の算定の内訳(どの項目が収益の何割か)
  2. 今回の改定で、その内訳のうち影響を受ける項目
  3. 要件変更で、現場の業務(書類・カンファレンス・配置)が変わる箇所

この質問ができるセラピストは、管理側から見て確実に一目置かれます。そして問い3につながる重要な情報が手に入ります。

問い3: 自分の市場価値はどう動くのか——キャリアに引きつけて読む

最後の問いが、この記事の本題です。改定は職場の収益だけでなく、セラピスト個人の市場価値の相場も動かします。

考え方はシンプルです。国が評価を厚くする領域では人材の需要が増え、評価を薄くする領域では雇用の伸びが止まる。つまり改定の方向は、数年後の求人市場の予告編として読めます。

たとえば、地域・在宅重視の流れが続くなら、訪問リハビリや地域連携の経験を持つセラピストの需要は底堅いと読めます。アウトカム評価の強化が続くなら、機能評価とデータの扱いに強いセラピスト、実績指数の管理ができる管理職候補の価値が上がると読めます。多職種連携の評価が厚くなるなら、カンファレンスを回せる調整力が、技術と並ぶ評価軸になっていくと読めます。

逆に、「今の職場で今の業務だけをしていれば安泰」という前提は、改定のたびに少しずつ削られていきます。単位を取ることだけが仕事だった時代の働き方は、量から質への流れと正面からぶつかるからです。

情報源の当たり方——二次情報で騒がず、一次情報で確かめる

改定情報との付き合い方も、型にしておきましょう。

  • 一次情報: 厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料、告示・通知、疑義解釈。最終的な根拠は常にここ
  • 準一次情報: 職能団体(理学療法士協会・作業療法士協会など)の解説、病院団体の資料
  • 二次情報: 業界メディア、コンサルタントの解説、SNS。早くてわかりやすいが、伝言ゲームで不正確になりがち

実務的なおすすめは、「二次情報で見出しを拾い、気になったものだけ一次情報で確かめる」という往復です。全部を一次情報で追うのは現実的ではありませんが、自分の職場の柱に関わる項目だけは、必ず告示・通知の原文と疑義解釈まで当たる。この習慣があるだけで、院内で「制度に強い人」になれます。

改定を「キャリアの定期点検」に変える

まとめます。診療報酬改定は2年に一度必ず来る、避けられないイベントです。ならば、これを受け身の災害ではなく、2年に一度のキャリア定期点検として使うのが合理的です。

改定のたびに、3つの問いを自分に立てる。

  1. 国の方向はどちらを向いたか(潮流の確認)
  2. 職場の収益構造のどこに効くか(足元の確認)
  3. 自分の経験・スキルの市場価値はどう動くか(キャリアの確認)

そして点検の結果に応じて、学ぶ領域を足し、経験の幅を広げ、必要なら働く場所を考え直す。制度は自分では変えられませんが、制度の変化を早く正確に読めることは、それ自体が専門職の競争力です。

よくある質問

現場の一スタッフが改定を読んで意味がありますか

あります。理由は2つ。第一に、要件変更は必ず現場業務(書類・カンファレンス・評価指標)の変更として降りてきます。背景を理解しているスタッフとそうでないスタッフでは、変更への適応速度も、管理側からの信頼もまったく違います。第二に、問い3で述べたとおり、改定は自分の市場価値の予告編です。読まないことは、自分のキャリアの天気予報を見ないことと同じです。

忙しくて中医協資料まで追えません

全部を追う必要はありません。改定年の前年秋から議論が本格化するので、その時期に職能団体のまとめを1本読む。改定年の春に、自分の職場の柱に関わる項目だけ告示・通知で確認する。年に数時間の投資で「制度に強い人」の側に立てます。

まとめ

診療報酬改定は、方向(国の潮流)・構造(職場の収益)・価値(自分の市場性)という3つの問いで読めば、恐れるものではなく2年ごとのキャリア定期点検になります。点数表の向こう側にある方向を読む目を、次の改定までに育てておきましょう。