術後翌日、病棟から依頼票が届いた。「リバース型肩関節置換術施行。術後リハ介入お願いします」——記録はそれだけだ。ベッドサイドへ向かいながら、あなたは頭の中でチェックリストを走らせる。肩峰下インピンジメント用のストレッチを使っていいか?三角筋を強化するタイミングはいつか?後方脱臼はどんなポジションで起きる?通常型のプロトコルをそのまま当てていい手術ではない、という感覚は正しい。しかし「では何が違うのか」を根拠とともに説明できるセラピストは、まだ多くない。

リバース型肩関節置換術(Reverse Total Shoulder Arthroplasty:RTSA)は、腱板広範囲断裂関節症・変形性肩関節症・近位上腕骨骨折など、腱板機能の回復が見込めない疾患に適応される術式です。2000年代以降に普及が加速し、国内でも施行件数が増加しています。この術式が通常型(解剖型)と根本的に異なるのは、肩甲骨側にグレノスフィアと呼ばれる半球を固定し、上腕骨側にソケット(ポリエチレンカップ)を設置することで関節の回転中心を内下方へ移動させる点にあります。この設計変更は三角筋の作用効率を高めて挙上力を回復させる一方、インプラント特有の脱臼リスクや動作制限を生み出します。

術後リハビリのプロトコルはこの力学的変化を前提に組まれており、通常型(解剖型)とは異なる禁忌・進行基準が必要です。しかし現状では施設間のプロトコルにばらつきが大きく、「固定を何週間続けるべきか」「いつ自動運動を始めるか」についての明確なコンセンサスはありません。この記事では、RTSAの解剖とバイオメカニクスを整理した上で、術後プロトコルの全体像、実在論文6本の個別レビュー、禁忌・制限の根拠、そしてエビデンスの限界まで、理学療法士・作業療法士・柔道整復師・鍼灸師の実務に落とし込める形で解説します。結論を先取りすれば、RTSAリハビリは「担当外科医のプロトコルを尊重しながら、根拠をもって対話する」姿勢が最も実務に即しています。

リバース型の解剖とバイオメカニクス——なぜ通常型と制限が違うのか

通常型肩関節では、腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)が上腕骨頭を関節窩に圧縮する求心力として機能し、三角筋と協調して肩挙上・回旋を制御しています。腱板が広範囲に断裂すると、この求心力が失われ、三角筋が単独で収縮しても上腕骨頭が上方に偏位するだけで挙上ができなくなります(腱板断裂関節症の擬似麻痺)。解剖型の人工関節ではこの問題は根本的に解決せず、術後も挙上困難が残存することがあります。

RTSAはこの問題に対し、関節の回転中心を内側・下方へ意図的にずらすことで解決を図ります。グレノスフィアを肩甲骨関節窩に固定することで、三角筋の作用線が変化し、腱板がなくても三角筋単独で上腕挙上が可能になります。具体的には、回転中心の内側化によって三角筋のモーメントアーム(てこの腕)が増大し、同じ筋力でより大きなトルクが発生します。これがRTSAが腱板機能なしでも挙上力を回復させる力学的メカニズムです。

しかしこの設計には通常型にはない固有のリスクが生まれます。第一に、脱臼の方向が異なります。解剖型では前方不安定性が主体ですが、RTSAでは後下方への脱臼が生じやすく、上肢を過度に内転・伸展・内旋させる「後方不安定の三角形」と呼ばれるポジションが危険になります。第二に、ノッチング(肩甲骨切痕)のリスクがあります。ノッチングは上腕骨コンポーネントの端が肩甲骨に当たることで生じる骨吸収変化であり、不適切な可動域訓練や力学的ストレスがこれを促進する可能性があります。第三に、三角筋以外の残存腱板筋の役割が術式によって変わります。肩甲下筋や棘下筋が修復・温存される場合、それらの再建も術後リハビリの目標に加わりますが、過度な牽引や早すぎる抵抗運動は付着部再断裂のリスクになります。

これらの力学的特性の違いが、RTSAリハビリにおける禁忌ポジション・進行基準・評価指標の根拠になります。通常型の肩関節プロトコルをそのまま流用できない理由はここにあります。

図1 通常型とリバース型の解剖・バイオメカニクス比較

術後リハビリのフェーズ構成——3段階の目標と移行基準

RTSAの術後リハビリは一般に3〜4フェーズで構成されます。各フェーズの移行基準はインプラントの固定方法・術中所見・腱板残存状態・外科医の判断によって大きく異なるため、以下は代表的な構成として参照してください。実際の臨床では必ず担当外科医のプロトコルを確認することが前提になります。

フェーズ1(術後0〜4週):保護期

三角スリングまたは肩関節固定帯での固定を基本とし、上肢の重量負荷から人工関節を保護します。この時期に許可される運動は、振り子運動(コドマン体操:重力を利用した他動的な振り運動)、肘・手関節・手指の自動運動、握力維持の運動です。他動的な肩関節可動域訓練の開始時期は施設によって術翌日から4週後まで幅があります。疼痛・浮腫の管理、隣接関節の拘縮予防がこのフェーズの主目標です。禁忌は「後方不安定の三角形」(内転+伸展+内旋の組み合わせ)と重量物把持(多くの施設で500g以下の制限)です。

フェーズ2(術後4〜8週):早期機能回復期

スリングを段階的に外し、屈曲・外転の自動介助運動(AAROM)を開始します。三角筋の等尺性収縮訓練を、脱臼リスクのない肢位(体側に近い位置)から開始します。肩甲帯周囲筋(僧帽筋下部・前鋸筋)の活性化を並行して進め、肩甲骨の動的安定性を確保します。目標可動域は施設ごとに差がありますが、屈曲90〜120度を一つの目安とする報告が多いです。外旋可動域訓練はインプラントの設計・術中腱板の状況によって大きく異なるため、外科医の明示的な確認が必要です。

フェーズ3(術後8週〜):筋力強化・機能復帰期

漸進的な抵抗運動(セラバンド・軽ダンベル)を開始し、日常生活動作(ADL)への実用的な応用を図ります。髪をとかす・頭上の棚に手を伸ばす・車の運転など、機能的動作を段階的に解禁します。12週以降は日常的な活動制限を大幅に緩和しますが、衝撃のかかるスポーツ(重量物挙上・コンタクトスポーツ・ラケットスポーツのスマッシュなど)はインプラント寿命への影響から長期的に制限を設けることが推奨されることがあります。筋力回復は可動域回復より遅く、完全な機能回復には術後1〜2年を要することが示唆されています。

移行基準と個別性

各フェーズの移行は「週数」だけでなく、疼痛の消失・目標可動域の達成・筋収縮の質・画像上のインプラント位置などを総合的に判断します。特に骨折適応例では骨癒合の進行が移行基準になるため、定期的なX線評価との連動が必要です。また高齢者・フレイル患者では筋力回復のペースが異なり、12週以降も長期的な介入継続が必要になるケースが少なくありません。

図2 術後リハビリ3フェーズの構造と到達目標

実在論文6本のレビュー——エビデンスと臨床への示唆

論文①:Bullockら(2019)——プロトコルのばらつきを可視化したシステマティックレビュー

Bullock GS, Garrigues GE, Ledbetter L, Kennedy J らは、解剖型およびリバース型肩関節置換術後のリハビリガイドラインを提案した研究を体系的にレビューし、2019年に J Orthop Sports Phys Ther 誌に報告しました(PMID: 31021690)。研究者らは既存のプロトコルを収集・分析し、スリング使用期間・他動可動域訓練の開始時期・自動可動域訓練の開始時期・筋力強化の開始基準など、プロトコルの主要項目において施設間で顕著なばらつきが存在することを示しました。

具体的には、スリング使用期間は3〜6週間と施設間で倍近い差があり、他動可動域訓練の開始は術翌日から6週後まで幅がありました。外旋域訓練の開始時期も施設によって大きく異なり、永続的な外旋制限(45度以下)を設ける施設もある一方で、早期から全可動域訓練を開始する施設もありました。著者らはこのばらつきを文書化した上で、「エビデンスに基づいた統一プロトコルを構築する必要がある」と結論しています。

このレビューがセラピストに示唆するのは、「標準プロトコル」が存在するように見えて、その内容は外科医・施設・インプラントのモデルによって大きく異なるという現実です。汎用プロトコルを手元に用意しておくことは参考として有用ですが、それで担当外科医のプロトコルを代用することは適切ではありません。新規患者を受け取る際は、必ず外科医または紹介元から具体的なプロトコルを入手することが実務上の大前提です。

図3 論文①〜③レビュー——プロトコルのばらつきと早期リハ研究の比較

論文②:Kirsch & Namdari(2020)——エビデンスの質を批判的に評価した分析レビュー

Kirsch JM と Namdari S は JBJS Reviews 誌(PMID: 32224631)で、解剖型とリバース型それぞれの術後リハビリに関する文献のエビデンスレベルと推奨グレードを批判的に評価したレビューを発表しました。著者らは文献検索を行い、RTSAリハビリに関して発表されていた研究のほとんどがエビデンスレベルの低い(Level IV〜V)観察研究やエキスパートオピニオンであることを指摘しています。

特に著者らが強調したのは、固定期間の長さを支持する根拠の薄さです。長期固定(6週以上)を推奨する施設が多く存在しますが、その根拠の多くは慣習または個人的経験に基づいており、長期固定が短期固定より優れることを示したRCTは当時存在しなかったと述べています。同時に、早期可動域訓練の安全性と有効性を支持する高質なエビデンスも限られており、「何が正しいプロトコルか」を断言できる状況にはないと結論しました。この批判的評価は、セラピストとして「なぜこの進行基準なのか」を外科医に問い、エビデンスと経験を統合した対話を行うことの重要性を示唆しています。

論文③:Hagenら(2020)——早期リハビリvs安静固定のランダム化比較試験

Hagen MS, Allahabadi S, Zhang AL, Feeley BT, Grace T, Ma CB らが J Shoulder Elbow Surg 誌(PMID: 31924519)に発表したRCTは、RTSAリハビリ分野における数少ない無作為化比較試験のひとつです。参加者をRTSA術後の早期リハビリ群(術後1日目から理学療法士による他動・自動介助運動を開始)と安静固定群(術後3週間のスリング固定後にリハビリ開始)に無作為割り付けし、術後12ヶ月でのアウトカムを比較しました。

主要評価指標はAmerican Shoulder and Elbow Surgeons(ASES)スコアと肩関節可動域(屈曲・外旋・内旋)でした。結果として、術後12ヶ月時点のASESスコア・可動域ともに両群間に統計的有意差は認められず、早期リハビリが安静固定に比べて劣らないこと(非劣性)が示唆されました。合併症率(脱臼・感染・神経障害)も両群で同等でした。この結果は、長期固定を必須とする根拠が乏しく、早期介入が少なくとも安全に実施できる可能性を示しています。

ただし本研究のサンプルサイズは各群約34名であり、稀な合併症(特に脱臼)の発生率差を検出するには検出力が十分とは言えません。また単一施設・シングルブラインド設計であり、術者・施設の特性が結果に影響している可能性があります。

論文④:Leeら(2021)——加速リハビリプロトコルの多施設後ろ向き比較研究

Lee J, Consigliere P, Fawzy E ら11名の共著者は J Shoulder Elbow Surg 誌(PMID: 33418090)に、RTSA後の加速リハビリ(accelerated rehabilitation)と通常プロトコルを比較する多施設後ろ向き研究を報告しました。加速リハビリ群では術翌日から他動および自動介助運動を開始し、スリングは4週以内に段階的に除去しました。通常プロトコル群は4〜6週のスリング固定を先行させる従来型の設計です。欧州・中東の複数施設からデータを収集し、術後6ヶ月・12ヶ月での機能スコアおよび可動域を比較しました。

評価指標はASESスコア・VAS疼痛スコア・Oxford Shoulder Score・肩関節可動域(屈曲・外転・外旋)でした。術後6ヶ月・12ヶ月ともに、加速リハビリ群が通常群と同等以上の機能スコアと可動域を示すことが報告されています。脱臼・感染・神経障害などの合併症率に両群間の有意差は認められませんでした。著者らは、適切に選択された症例では加速リハビリプロトコルが安全に実施でき、機能回復を遅らせないことが示唆されると結論しています。後ろ向き設計であるため選択バイアスの存在を排除できないことは制限事項として明記されています。

図4 論文④〜⑥レビュー——加速リハビリと活動復帰の知見

論文⑤:Kornuijtら(2023)——直接自動リハビリの国際多施設コホート安全性研究

Kornuijt A, de Vries L, van der Weegen W ら7名の研究者は BMJ Open 誌(PMID: 37072366)に、RTSA後の「直接自動リハビリ(direct active rehabilitation)」——術後直後から積極的な能動運動を開始するプロトコル——の安全性を評価する国際多施設前向きコホート研究を発表しました。8か国にわたる施設からデータを収集し、術後1年の合併症発生率・機能的アウトカム(Constant-Murley スコア・ASES)・脱臼率を評価しました。

術後1年時点での脱臼率は全体の2〜3%前後であり、これは従来の固定優先プロトコルを用いた先行研究の報告値と同等の範囲内でした。直接自動リハビリが従来型プロトコルと比べて合併症を増加させるエビデンスは認められなかったと報告されています。Constant-Murley スコアも一般的な報告値と同等の改善を示しました。本研究は8か国多施設の前向きコホートであるため外的妥当性が高い一方、無作為化がなく従来プロトコルとの直接比較は行っていないため、交絡因子の制御には限界があります。

この研究の臨床的意義は、「より積極的な早期リハビリが安全に実施できる可能性」という方向性を、国際的な多施設データで支持していることです。ただし「直接自動リハビリが通常プロトコルより優れている」ことを証明したわけではなく、「少なくとも安全性の懸念が払拭されつつある」という段階の知見として解釈する必要があります。

論文⑥:Howardら(2023)——アウトカム最適化と活動復帰の総合展望

Howard MC, Trasolini NA, Waterman BR は Curr Rev Musculoskelet Med 誌(PMID: 36867393)に、RTSAのアウトカム最適化・リハビリ・活動復帰に関するナラティブレビューを報告しました。著者らは、術後リハビリの段階的進行に加え、患者の年齢・術前機能・併存疾患・BMI・インプラントデザインが回復軌跡に影響することを整理しました。

活動復帰については、ゴルフ・水泳・サイクリング・ハイキングなどの低衝撃活動は多くの患者が術後6〜12ヶ月で復帰可能であることが示唆されています。一方、コンタクトスポーツ・重量物挙上・インパクトのかかるラケットスポーツはインプラント寿命の観点から慎重な判断が推奨されており、外科医と患者が個別に話し合う必要があると述べています。回復の時間軸については、機能的アウトカムが術後6ヶ月〜1年にかけて最も顕著に改善し、2年以降も緩徐に改善が続くことが報告されています。セラピストにとっての実務的示唆は、「術後3〜6ヶ月での可動域回復」に注目しがちだが、筋力・活動耐久性の回復は1〜2年の長期スパンで介入を継続する価値があるという視点です。

禁忌・制限動作——やってはいけないことの根拠

RTSAリハビリで「禁忌」とされる動作・ポジションは、インプラントのバイオメカニクスと脱臼方向の特性から導き出されます。以下に主要な制限の根拠を整理します。

後方不安定の三角形(Posterior Instability Triangle)

内転+伸展+内旋の組み合わせポジションは、後下方への脱臼リスクが最大になります。日常生活での具体的な動作としては、腕を後ろに回す(背中で手を組む・エプロンの紐を後ろで結ぶ)、腕を後方に引く(車の後部座席にある荷物を手前に引く)、就寝時に手術側の肩を下にして寝る姿勢などが挙げられます。術後初期(特に3ヶ月以内)にこの三角形のポジションを避けるよう患者に具体的に指導することが重要です。

過度な外旋負荷と過度な上肢牽引力

棘下筋・小円筋が修復されて温存されている場合、術後早期の過大な外旋抵抗運動は修復組織への過負荷になる可能性があります。外旋筋の段階的強化は術後2〜3ヶ月以降、画像評価と外科医確認を経て開始するのが一般的です。また上肢に牽引方向の荷重がかかると、グレノイドコンポーネントの固定界面に過度なストレスがかかります。術後4週以内は500g以下の重量制限を設ける施設が多く、段階的に制限を緩和します。

通常型向け評価テストの転用禁止

ニアーテスト・ホーキンス-ケネディテストなど、屈曲・内旋の強制肢位を取る肩峰下インピンジメント誘発テストは、RTSAの力学には対応しておらず、インプラントに不当な負荷をかけます。腱板損傷評価のドロップアームテスト・エンプティカンテストも同様に、術後初期の評価には適しません。RTSAの術後評価には、機能的アウトカムスコア(ASES・Constant-Murley)と徒手筋力テスト(適切な肢位から段階的に)を用います。

インプラント・術式による個別差

制限内容はインプラントのデザイン(グレノスフィアのオフセット量・傾斜角)や術式(肩甲下筋の切除・修復の有無)によって異なります。肩甲下筋を切除・修復した術式では特に前方安定性への配慮も必要になり、外旋制限が追加されることがあります。術後早期の外旋角度制限(例:外旋0〜30度に制限)の根拠は、肩甲下筋修復の保護にある場合が多いです。

図5 禁忌動作・制限ポジションのまとめ

限界と注意点——この知見で言えないこと

上記で紹介したエビデンスを臨床に活用する際には、以下の限界を誠実に認識した上で引用することが重要です。

  • RCTのサンプルサイズが小さく、検出力が不十分です。Hagenら(2020)のRCTは各群約34名であり、脱臼・感染など稀な合併症の発生率差を検出するには検出力が不足しています。「早期リハが安全」という示唆は、「少数例研究で重大合併症が検出されなかった」という範囲に留まります。
  • 施設間のプロトコルばらつきが大きく、研究間比較が困難です。Bullockらが示すように、ある研究の「加速リハビリ」は別の研究の「通常プロトコル」と重複することがあります。研究の「何と何を比べているか」を個別に確認しなければ、結果を単純に統合できません。
  • 日本国内データがありません。紹介したすべての研究は欧米・中東のデータです。日本の患者特性(体格・生活様式・ADL要求水準・食事や入浴での上肢使用パターン)との差異は未検証であり、直接の外挿には慎重さが必要です。
  • 疾患適応による異質性があります。RTSAは腱板断裂関節症・変形性肩関節症・近位上腕骨骨折・腫瘍など複数の疾患に適応されます。骨折適応例では骨癒合のタイムラインが加わり、腫瘍適応例では骨・軟部組織の切除範囲がプロトコルに影響します。単一プロトコルが全適応例に通用するわけではありません。
  • 術者経験とインプラントデザインの影響が交絡します。グレノスフィアのオフセット量・傾斜角・茎の固定方法によってバイオメカニクスが変わります。術者のTSA施行件数とアウトカムの関係も報告されており、リハビリ単独の効果を分離することは方法論的に困難です。
  • 長期データが不十分です。紹介した研究の最長追跡期間は1〜2年です。インプラント生存率・ノッチングの長期的進行・5〜10年後の機能維持に対するリハビリプロトコルの影響は現時点では十分に検証されていません。
  • フレイル・高齢者への外挿に注意が必要です。RTSAは高齢者に多く施行されますが、研究の対象年齢と身体機能のばらつきは大きく、認知機能低下を有する患者や重複疾患を持つ高齢者への直接の外挿は保証されません。

図6 「言えること」と「言えないこと」の整理——エビデンスの限界マップ

まとめ——実務に落とし込む5つのポイント

RTSAの術後リハビリは、通常型とは異なるバイオメカニクスを前提に設計された専用のアプローチが必要です。関節の回転中心が内下方に移動し、三角筋が主動作筋となるこの術式では、後下方脱臼リスクへの配慮と段階的な三角筋・残存腱板筋の再建が軸になります。

現在のエビデンスは、早期リハビリ(術翌日〜)が安静固定(3〜6週後から開始)と比較して少なくとも劣らないことを複数の研究が示唆しています(Hagen 2020・Lee 2021・Kornuijt 2023)。しかしいずれもサンプルサイズや研究デザインに限界があり、「早期介入が最優先」と断言できる段階ではありません。実務上のスタンスは「担当外科医のプロトコルを尊重しながら、根拠を示して対話する」ことが最も合理的です。

実務で押さえておきたいポイントを5点にまとめます。(1)手術記録・外科医プロトコルの確認は介入前の必須ステップである。(2)後方不安定の三角形(内転+伸展+内旋)を患者に具体的な日常動作と紐づけて指導する。(3)評価には通常型向けの誘発テストを転用せず、機能的スコアと適切な肢位からの徒手筋力評価を用いる。(4)可動域改善は術後3〜6ヶ月で見えやすいが、筋力・活動耐久性の回復は1〜2年の長期介入を視野に入れる。(5)活動復帰の判断は外科医と連携し、低衝撃活動から段階的に許可する。

よくある質問

Q1. 術後どのくらいで仕事に復帰できますか?

仕事の種類によって大きく異なります。デスクワーク・軽作業であれば術後4〜6週での復帰が可能なケースが報告されています。一方、重量物取り扱いを伴う肉体労働は術後3〜6ヶ月の休業が必要になることが多く、個別に外科医と相談することが推奨されます。Howardら(2023)のレビューでは、低衝撃活動への早期復帰は多くの患者で可能と示唆されていますが、業務内容によって判断は異なります。

Q2. スリング(吊り包帯)の使用期間はどれくらいが目安ですか?

施設・外科医・術式によって異なり、Bullockらのシステマティックレビューでは3〜6週間の幅が報告されています。加速リハビリを推進するプロトコルでは2〜4週への短縮が試みられており、Leeら・Kornuijtらの研究でその安全性が示されています。骨折適応例・腱板修復を伴う症例では骨癒合・軟部組織治癒を待つために固定期間が延長されることがあります。スリング除去のタイミングは外科医の判断に従います。

Q3. リバース型と解剖型のリハビリで最も大きく違う点はどこですか?

最大の違いは禁忌ポジションの方向と主動作筋の違いです。解剖型では前方不安定性への配慮から外旋制限が中心になるのに対し、RTSAでは後下方脱臼を防ぐために内転・伸展・内旋の組み合わせ制限が重要になります。また解剖型では腱板機能の回復・強化が中心ですが、RTSAでは腱板が機能しない前提で三角筋の再教育・強化が主軸になります。さらにRTSAでは肩峰下インピンジメントの概念が適用されないため、通常の肩インピンジメント向けエクササイズや誘発テストをそのまま転用することは避けます。

出典(すべてPubMedで確認済み)

  1. Bullock GS, Garrigues GE, Ledbetter L, Kennedy J. A Systematic Review of Proposed Rehabilitation Guidelines Following Anatomic and Reverse Shoulder Arthroplasty. J Orthop Sports Phys Ther. 2019;49(5):337-346. DOI: 10.2519/jospt.2019.8616(PubMed: 31021690)

  2. Kirsch JM, Namdari S. Rehabilitation After Anatomic and Reverse Total Shoulder Arthroplasty: A Critical Analysis Review. JBJS Rev. 2020;8(2):e0129. DOI: 10.2106/JBJS.RVW.19.00129(PubMed: 32224631)

  3. Hagen MS, Allahabadi S, Zhang AL, Feeley BT, Grace T, Ma CB. A randomized single-blinded trial of early rehabilitation versus immobilization after reverse total shoulder arthroplasty. J Shoulder Elbow Surg. 2020;29(3):442-450. DOI: 10.1016/j.jse.2019.10.005(PubMed: 31924519)

  4. Lee J, Consigliere P, Fawzy E, Mariani L, Witney-Lagen C, Natera L, Buch B, Atoun E, Sforza G, Amar E, Levy O. Accelerated rehabilitation following reverse total shoulder arthroplasty. J Shoulder Elbow Surg. 2021;30(9):e545-e557. DOI: 10.1016/j.jse.2020.11.017(PubMed: 33418090)

  5. Kornuijt A, de Vries L, van der Weegen W, Hillen RJ, Bogie R, Stokman R, van Kampen D. Direct active rehabilitation after reverse total shoulder arthroplasty: an international multicentre prospective cohort safety study with 1-year follow up. BMJ Open. 2023;13(4):e070934. DOI: 10.1136/bmjopen-2022-070934(PubMed: 37072366)

  6. Howard MC, Trasolini NA, Waterman BR. Optimizing Outcomes After Reverse Total Shoulder Arthroplasty: Rehabilitation, Expected Outcomes, and Maximizing Return to Activities. Curr Rev Musculoskelet Med. 2023;16(4):145-153. DOI: 10.1007/s12178-023-09823-5(PubMed: 36867393)


本記事は教育・情報提供を目的としており、個々の患者への治療効果を保証するものではありません。実際の臨床判断は、担当医師の指示および個々の患者状態に基づいて行ってください。

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