「この患者さん、先週ようやく要介護2の認定が下りました。でも退院からまだ6週間しか経っていないし、疾患別リハビリの標準的算定日数には余裕があります。このまま医療保険の訪問リハビリを続けていいですか?」——こういう問いが、病院のリハ科外来やケアマネジャーとのカンファレンスで日常的に飛び交います。
答えは原則として「いいえ」です。要介護認定が下りた時点で、訪問リハビリは介護保険での提供に切り替えるのが原則であり、標準的算定日数の残存日数はこの原則を覆しません。しかしこの「原則」には複数の例外が存在し、しかも例外条件の種類・確認すべき書類・切り替えのタイムラインについて、現場の療法士が正確に理解している機会は多くありません。誤解のまま医療保険で算定を続けると、指導・監査の場で返還を求められるリスクがあります。
訪問リハビリの保険選択の問題は、「医療保険か介護保険か」という2択に見えて、実際には要介護認定の有無・疾患の種類・発症からの経過期間・提供主体(医療機関か訪問看護ステーションか)・医師の診察記録の状態という5つの軸が絡み合う複合的な判断です。
本記事では、この判断の全体像を6枚の図解で整理し、関連する実在論文6本(Nakagawa 2025・Konishi 2023・Kojima 2025・Olivares-Tirado 2012・Asaeda 2023・Kitamura 2021)を1本ずつレビューします。最後に「誤算定の落とし穴」と「この知見で言えないこと」を誠実に示すことで、制度の原則と限界を実務に使える形でお届けします。なお、本記事の制度情報は2026年9月時点の理解に基づきます。診療報酬・介護報酬は改定のたびに変わるため、実際の算定前には厚生労働省の告示・通知・疑義解釈を必ず直接確認してください。
医療保険と介護保険の訪問リハビリ——2つの制度の全体像
訪問リハビリの給付制度には、大きく分けて2つの枠組みがあります。
【医療保険の訪問リハビリ】
健康保険(または後期高齢者医療制度)で給付される訪問リハビリは、病院・診療所・介護老人保健施設が提供主体となり、診療報酬の枠組みで算定します。主治医が「訪問リハビリテーション指示書」を発行し、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が居宅を訪問します。また、訪問看護ステーションの理学療法士等が訪問する場合は「訪問看護」(訪問看護療養費)として算定されますが、実質的な内容は訪問リハビリに相当します。
医療保険の場合、疾患別リハビリテーション料(脳血管疾患等・運動器・廃用症候群・呼吸器など)と在宅管理の仕組みが組み合わされており、発症・手術・急性増悪からの経過期間(標準的算定日数)が算定の可否に関わります。令和8年度(2026年4月)改定では「診療未実施減算」が整理・再編され、主治医の診察頻度が一定基準を下回る場合に減算が適用される規定が設けられました。これは医療保険での訪問リハビリを継続する際に特に注意が必要な変更点です。
【介護保険の訪問リハビリ】
要介護1〜5または要支援1・2の認定を受けた者に対し、介護報酬で算定する「訪問リハビリテーション」です。提供主体は、病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院が「訪問リハビリテーション事業所」として都道府県の指定を受けた施設に限られます。ケアマネジャーが作成するケアプランに位置づけられることが必須であり、要介護度ごとに設定された支給限度基準額の範囲内で給付されます。
利用者の窓口負担は原則1割(一定以上の所得者は2〜3割)で、医療保険の原則3割より一般的に低くなります。令和6年度(2024年4月)改定以降、「リハビリテーション・機能訓練・口腔・栄養の一体的な実施」が推進されており、訪問リハビリのリハビリテーションマネジメント加算の要件も整理されました。令和9年度介護報酬改定(2027年予定)ではさらなる見直しが検討されており、社会保障審議会介護給付費分科会での議論が続いています。
2つの制度の根本的な違いは、「給付の根拠法」にあります。医療保険は健康保険法・後期高齢者医療制度を根拠とし、「疾病の治療・回復」を主な目的とします。介護保険は介護保険法を根拠とし、「日常生活の自立支援・介護予防」を主な目的とします。この目的の違いが、同じ訪問リハビリという行為に対して異なる保険が適用される制度的な理由であり、次節で説明する「介護保険優先原則」の基盤にもなっています。
介護保険優先の原則と6つの「例外」を整理する
「要介護認定が取れたら介護保険で」という原則は、厚生労働省の通知(老振発・老計発等の各種行政解釈)に基づき確立されています。介護保険法が2000年に創設されたとき、国は「医療と介護の役割分担を明確にする」という方針のもと、介護保険の対象者(要介護・要支援認定者)への訪問リハビリは原則として介護保険から給付することを定めました。同じ内容のサービスに対して2つの保険から重複給付することは認められません。
確認の第一歩は「要介護・要支援認定を受けているか否か」です。認定を受けていない(非該当・未申請・認定申請中)場合は医療保険を使います。認定を受けている場合は原則として介護保険に移行し、以下の6つの例外条件に該当するかを確認します。
例外条件1:末期の悪性腫瘍(がん末期)
悪性腫瘍の末期と主治医が診断した場合は、要介護認定があっても医療保険の訪問リハビリ(訪問看護ステーション経由を含む)が適用されます。進行した悪性腫瘍の患者は医療的な管理の必要度が高く、介護保険の給付設計(ADL維持・生活支援を主軸とする)とは異なるニーズを持つためです。「末期」の判断基準は主治医の医学的判断によりますが、診療録に「末期」の記載があることが算定の根拠として重要です。
例外条件2:指定難病・特定疾患治療研究対象疾病
ALSや筋ジストロフィー、重症のパーキンソン病など、厚生労働大臣が定める「疾病等」(告示第8号の2)に列挙される疾患は、要介護認定があっても医療保険での訪問が認められます。対象疾患の一覧は厚生労働省の告示を直接確認してください。疾患の診断書や特定医療費受給者証などの根拠書類の保管が推奨されます。
例外条件3:40歳未満・第2号被保険者の特定疾病非該当
介護保険の第1号被保険者は65歳以上、第2号被保険者は40〜64歳です。40歳未満は介護保険の被保険者ではないため、すべて医療保険が適用されます。40〜64歳の第2号被保険者は、特定疾病(脳血管疾患・関節リウマチなど16疾患)に起因する要介護状態の場合のみ介護保険が適用され、特定疾病に該当しない場合は医療保険を使います。
例外条件4:急性増悪・退院直後の医療ニーズが高い時期
要介護認定者でも、病状の急性増悪が認められる場合には一時的に医療保険での対応が可能です。ただし「退院直後だから医療保険」という理解は誤りです。退院後であっても要介護認定があれば原則介護保険であり、急性増悪はあくまで「医師が急性増悪と診断し、その記録が診療録にある場合」に限られます。急性増悪の認定は医師の医学的判断であり、療法士が独自に判断することはできません。
例外条件5:入院患者の一時帰宅(外泊)
入院中の患者が外泊する際の訪問リハビリは、入院費用の枠組みの中で医療保険として処理されます。この場合、介護保険の訪問リハビリとの同時算定は認められません。この例外は訪問頻度が少なく一時的なものに限られ、継続的な在宅リハビリの主要な根拠にはなりません。
例外条件6:精神科訪問看護の対象者等
精神科の訪問看護・訪問リハビリに関しては、要介護認定があっても医療保険の精神科訪問看護基本療養費が優先されるケースがあります。詳細な要件は精神科訪問看護の算定規定を確認してください。その他、労働者災害補償保険の適用者なども医療保険(または労災保険)が適用されます。
これらの例外条件に該当しないのであれば、要介護認定者への訪問リハビリは介護保険で提供します。この判断を怠り医療保険で継続することが、後述する誤算定の最も多いパターンです。
医療保険での訪問リハが使える実務条件——180日ルールと継続算定の整理
要介護認定を受けていない患者(医療保険で訪問リハビリを提供できる患者)を担当している場合、疾患別リハビリテーション料の「標準的算定日数」が重要な壁として現れます。
疾患別リハビリテーションの標準的算定日数は、発症・手術・急性増悪からの経過日数で設定されます。脳血管疾患等リハビリテーション料は180日、運動器リハビリテーション料は150日、廃用症候群リハビリテーション料は120日、呼吸器リハビリテーション料は90日が目安です(対象疾患・算定区分により異なる。令和8年度改定時点)。標準的算定日数以内であれば、1日あたりの単位数(区分ごとに異なる)の上限を守りながら算定できます。
標準的算定日数を超えた後の継続算定
標準的算定日数を超えた場合、「除外対象患者(別表第九の八に該当する患者)」であれば引き続き算定継続が可能です。代表的な該当例には、①改善の見込みがあり治療継続が必要な状態(診療録への具体的記載が必要)、②廃用症候群でADLが低下している状態、③言語・摂食機能に著しい障害がある状態、④難治性・進行性神経筋疾患などがあります。いずれも1か月に1回以上の効果判定の記録が求められます。
除外対象患者に該当しない場合でも、月に13単位を上限として標準的算定日数超でのリハビリテーションを継続できる規定があります。ただし、この「月13単位継続算定」は、要介護認定を受けている患者には原則適用されません。要介護認定があれば介護保険への移行が優先されるため、この継続算定規定は医療保険の訪問リハビリを続けられる非認定患者に限定した話です。
診療未実施減算への実務的な対応
令和8年度の診療報酬改定で「診療未実施減算」が整理されました。医療保険の訪問リハビリを算定する際、主治医が当該利用者を一定期間内に診察していない場合に減算が適用される仕組みです。担当の療法士としては、「主治医の最後の診察日はいつか」を定期的に確認し、訪問を継続しながら主治医への連絡・診察依頼が滞っていないかをチェックする習慣が重要になります。具体的な減算の起算日・減算点数については令和8年度疑義解釈通知を確認してください。
訪問看護ステーション経由の場合の注意点
訪問看護ステーションから理学療法士等が訪問する場合は「訪問看護」として算定しますが、要介護認定者への適用原則(介護保険優先)は変わりません。医療保険の訪問看護指示書が発行されていても、要介護認定者に例外条件なく医療保険を適用することは認められません。「訪問看護ステーションからの訪問だから医療保険でも問題ない」という理解は誤りであり、この誤解が後述する誤算定パターン2の発生源になっています。
エビデンスレビュー——実在論文6本を1本ずつ読む
ここからが本記事の中核です。訪問リハビリと介護保険・医療保険に関連する実在論文6本を、研究デザインの特徴と臨床への応用の観点から1本ずつレビューします。すべてPubMedでPMIDとDOIを確認済みです(記事末尾に出典リストあり)。
論文1:Nakagawa 2025(Cureus)——退院後早期の介護保険訪問リハ開始が機能改善に有利
何を調べたか。 日本の介護保険制度を用いた訪問リハビリを受けた65歳以上の高齢者212名を対象に、在宅で当初から訪問リハを開始したグループと退院後に訪問リハを開始したグループに分け、Barthel Index(BI)とFrenchay Activities Index(FAI)の変化を比較した後ろ向きコホート研究です。2018年11月から2023年4月にかけてデータが収集されました。
何が分かったか。 BIおよびFAIの変化量、ならびに日常生活自立度を維持・改善した参加者の割合は、いずれも退院後早期に訪問リハビリを開始したグループで有意に高いことが報告されています。著者らは、退院後に速やかに介護保険の訪問リハビリへ連携する体制が機能転帰の改善に寄与している可能性を示唆しています。
臨床でどう使うか。 この研究が示すのは、「医療保険から介護保険への切り替えをできるだけ早く完了する」ことの意味です。手続きの煩雑さや関係者間の調整不足で切り替えが後回しになると、機能転帰の面でも不利益が生じうる可能性があります。なお、本研究は介護保険の訪問リハ内部での比較であり、医療保険継続との直接比較ではありません。サンプルも単施設の後ろ向き研究であるため、結果の外挿には慎重を期す必要があります。
論文2:Konishi 2023(Ann Clin Epidemiol)——日本の公的介護保険サービスの全体像を整理した概説
何を調べたか。 日本の公的介護保険制度の構造——要介護認定・給付区分・事業所の類型・財源・請求データの特徴——を医学・疫学研究者向けに整理したレビュー(概説)です。介護報酬の請求データ(NDB等)との対応関係も含めて解説されています。
何が分かったか。 日本の介護保険は2000年に開始され、65歳以上の人口における要介護・要支援認定率は2020年時点で約18%に達しています。訪問リハビリテーションは在宅介護サービスのひとつとして制度上に位置づけられており、要介護認定者への在宅リハビリは介護報酬で給付されることが制度設計の前提です。医療保険との役割分担は介護保険法上の規定に基づく行政解釈で確立されていることが概観できます。
臨床でどう使うか。 本論文は「介護保険優先原則の制度的な文脈」を国際的に通用する形で整理した参照文献です。なぜ介護保険が優先されるのかを患者・家族・多職種に説明する際の背景知識として活用できます。研究論文の引用として使う場合は「制度の全体像を示す概説論文」として位置づけてください。
論文3:Kojima 2025(Acta Med Okayama)——訪問リハビリ1回の即時効果をバランスと趾把握力で測定
何を調べたか。 日本の介護保険による在宅リハビリサービスを利用中の高齢者29名(平均年齢75.1歳)を対象に、1回のホームベースリハビリテーション施術の前後で、バランス能力と趾把握力を測定した介入研究(前後比較)です。脳血管疾患を有する参加者と有しない参加者を区別してサブグループ分析も行っています。
何が分かったか。 施術後に趾把握力が有意に改善し、脳血管疾患のある参加者では訪問リハビリ後のバランス能力にも有意な改善が報告されました。著者らは、1回の介護保険の訪問リハビリであっても即時的な身体機能への効果が認められたと述べています。
臨床でどう使うか。 サンプルサイズが少なく(29名)対照群のない研究であるため、因果推論には大きな限界があります。それでも、「介護保険に切り替えたら効果が落ちるのでは」という不安を持つ患者・家族に対し、介護保険の訪問リハビリにも即時的な身体機能への介入効果が示されていることを伝える文献として参照できます。週1回などの低頻度提供であっても意味があるかどうかを議論する際の足がかりになります。
論文4:Olivares-Tirado 2012(BMC Health Serv Res)——在宅・通所サービスが要介護高齢者の機能状態に与える影響
何を調べたか。 日本の介護保険請求データを用い、在宅介護サービス(訪問介護・訪問リハビリ含む)と通所サービス(通所リハビリ・通所介護)の利用が要介護高齢者の機能状態(Functional Independence Measure: FIM)の変化にどう影響するかを分析した後ろ向き研究です。利用しているサービスの組み合わせや要介護度との関連も分析されています。
何が分かったか。 訪問リハビリを含む在宅サービスの利用は機能状態の悪化速度を緩める傾向が示唆されましたが、サービス区分・要介護度・疾患背景によって効果の大きさに差があり、すべての群で一様ではありませんでした。通所リハビリと組み合わせて利用するグループで比較的良好な機能維持の傾向が見られた点が報告されています。
臨床でどう使うか。 「訪問リハビリに介護保険で切り替えたら機能が下がるのでは」という患者・家族の懸念に対し、介護保険の在宅サービスが機能維持に寄与しうることを示す参考文献として使えます。ただし本研究は2000年代前半の介護保険初期データに基づいており、現在の加算体系や給付管理の仕組みとは大きく異なります。機能維持の傾向として参照するにとどめ、現在の制度的な算定根拠としては使えません。
論文5:Asaeda 2023(Ann Med Surg)——介護保険リハビリの継続性の実態を問う横断調査
何を調べたか。 介護保険制度でリハビリを提供・受療している患者・施設を対象に、継続的なリハビリ提供を妨げる要因を質問紙調査で分析した横断研究(日本)です。医療保険から介護保険への引き継ぎ場面で生じる課題についても調査されています。
何が分かったか。 医療保険から介護保険へのリハビリ引き継ぎには、情報共有の不足・担当者間の連絡頻度の低さ・家族の介護負担・移動の困難さなどの複数の障壁があることが示唆されました。また介護保険のリハビリが計画通りに実施できていないと感じている療法士が一定数存在することも報告されており、継続性の確保が課題であると著者らは指摘しています。
臨床でどう使うか。 保険区分の判断フローを正しく理解していても、実際の切り替えをスムーズに行うためには「だれが何を、いつ、だれに伝えるか」という連携の仕組みが必要です。本論文が示す障壁リストは、退院時カンファレンスでケアマネジャー・主治医・担当療法士が共有すべき情報の洗い出しに実務上の参照として活用できます。「連携障壁をあらかじめ予測して対策を準備する」という発想の根拠になります。
論文6:Kitamura 2021(Nihon Ronen Igakkai Zasshi)——COPD高齢者の肺リハ利用率を医療・介護レセプトで追う
何を調べたか。 日本の後期高齢者医療レセプトと介護保険レセプトを連結したデータベースを用い、COPD(慢性閉塞性肺疾患)高齢者が医療保険・介護保険のどちらのルートで肺リハビリテーションを利用しているか、その利用率の実態を分析した後ろ向きDB研究です。医療・介護双方のレセプトを統合することで、どちらの保険でも肺リハを受けていない患者の存在を可視化しようとした研究設計が特徴的です。
何が分かったか。 COPD高齢者全体における肺リハビリテーションの利用率は全体的に低く、医療保険から介護保険へのスムーズな引き継ぎが行われていないケースが多いことが示唆されました。特に医療・介護保険の「はざま」に落ちる利用者——どちらの保険でもリハビリを受けられていない患者——の存在が明らかになりました。
臨床でどう使うか。 本研究が示す「はざまに落ちる患者」の問題は、呼吸器領域に限らず運動器・脳血管領域でも起こりうる普遍的なリスクです。医療保険での疾患別リハビリが終了し、かつ介護保険への引き継ぎも完了していない「空白期間」に患者がリハビリを受けられない状態が生まれます。この「空白期間ゼロ」を実現するためには、切り替えの判断と手続きを退院前から準備することが必須であり、先送りのコストを具体的に示す根拠として活用できます。
やってはいけないこと——誤算定の落とし穴と実際のリスク
保険区分の判断フローを正しく理解した上で、よくある誤算定のパターンと対策を整理します。
誤算定パターン1:要介護認定取得後も医療保険での訪問リハを継続する
最も多い誤算定です。「発症から180日以内だから医療保険で継続できる」「疾患別リハビリの算定日数に余裕があるから大丈夫」という誤解から生じます。要介護認定が下りた時点で介護保険への切り替えが原則であり、算定日数の余剰はこの原則を覆しません。指導・監査の場で返還を求められるリスクがあり、意図的な場合は不正請求に問われます。対策は「認定通知が届いたらケアマネジャーと即座に連絡を取り、切り替えのスケジュールを組む」という仕組みを担当チームで共有しておくことです。
誤算定パターン2:訪問看護ステーション経由だから医療保険でよいという誤解
訪問看護ステーションの療法士による訪問も、要介護認定者への原則(介護保険優先)は変わりません。例外条件(がん末期・指定難病等)に該当しない限り、介護報酬の「訪問看護費」で請求します。「医療保険の訪問看護指示書を取っているから」という理由だけでは不十分であり、算定前に利用者の要介護認定状況と例外条件の確認が必要です。
誤算定パターン3:「急性増悪」の医師確認なしの主張
病状の軽微な変化を急性増悪と解釈し、医療保険での継続を試みるケースです。急性増悪は医師が医学的に診断し、診療録に記載することが要件です。療法士が「機能が少し落ちたので急性増悪と判断した」だけでは算定根拠になりません。急性増悪が疑われる状況では必ず主治医に連絡し、診療録への記載を依頼してください。
誤算定パターン4:医療保険と介護保険の重複算定
同一の利用者・同一の月に、医療保険の訪問リハビリと介護保険の訪問リハビリを重複して算定することは認められません。提供主体が異なっていても(例:医療機関と訪問看護ステーション)二重請求は不可です。切り替え月は算定開始日を明確にし、どちらの保険で何日から請求するかを医事担当者と事前に確認してから開始します。
限界と注意点——この知見で「言えないこと」
本記事を誠実に使うために、引用した論文と制度情報の限界を明確に示します。
- 医療保険対介護保険の「どちらが機能改善に優れているか」を直接比較した日本のRCTは存在しない。 本記事で引用した論文の大部分は「介護保険下での訪問リハの効果」を扱うものであり、医療保険継続との頭対頭の無作為化比較試験は確認できていない。示されているのはあくまで「介護保険の訪問リハビリ内部での比較(早期開始vs遅延開始)」や「介護保険サービスの機能維持への関連」である。
- 診療報酬・介護報酬は2年ごと(同時改定は6年ごと)に更新される。 標準的算定日数・除外対象患者の基準・診療未実施減算の具体的要件・各種加算の算定条件は改定ごとに変わる。本記事の数値は執筆時点(2026年9月)の理解に基づくものであり、将来の改定で変更される可能性がある。実際の算定前には厚生労働省の告示・通知と疑義解釈の最新版を直接確認すること。
- 例外条件の判断は個別ケースの医師の診断に依存する。 「末期の悪性腫瘍」「急性増悪」「難病等の程度」の認定は主治医の医学的判断であり、療法士が独自に算定可否を判断するものではない。本記事は一般的な判断の枠組みを示すが、個々の算定可否を保証するものではない。
- Olivares-Tirado(2012)のデータは介護保険初期(2000年代)のものである。 当時のサービス水準・加算体系・給付管理は現在と大きく異なる。機能維持への関連の方向性として参照するにとどめ、現在の介護報酬制度の算定根拠としては使わないこと。
- 疾患領域・地域性の偏りがある。 Kitamura(2021)はCOPD高齢者、Kojima(2025)はバランス・趾把握力に限定した研究であり、脳血管・運動器・廃用症候群といった主要リハ疾患への直接外挿には注意が必要である。
- 「介護保険優先」に関する行政解釈は通知ベースであり、法律の条文に明記されているわけではない。 制度の解釈は時代と通知の改定とともに変わりうるため、疑義がある場合は都道府県の指導担当部署や保険者に確認することを推奨する。
まとめ——判断フローを手元に置く
本記事の要点を4ステップにまとめます。
ステップ1:要介護・要支援認定の有無を確認する。 認定がなければ医療保険、あれば原則として介護保険。認定更新のタイミングも見落としなく管理する。
ステップ2:例外条件に該当するかを確認する。 がん末期・指定難病・40歳未満・急性増悪(医師の診断・記録付き)・外泊時など6つの例外条件のいずれかに該当すれば、医療保険が適用される可能性がある。根拠書類の保管を忘れずに。
ステップ3:提供主体と算定形式を整理する。 医療機関直接か訪問看護ステーション経由かで算定コードは変わるが、要介護認定者への介護保険優先原則は変わらない。どちらのルートでも例外条件なければ介護保険が原則。
ステップ4:主治医の指示と診療記録の確認をセットで行う。 どちらの保険でも、主治医の指示書と適切な頻度での診察記録が算定の根拠になる。診療未実施減算(令和8年度改定)を避けるため、担当患者の主治医の直近診察日を定期的に確認する。
Nakagawa(2025)の研究が示すように、退院後の早期引き継ぎは介護保険の訪問リハビリの機能改善効果を高める可能性があります。Kitamura(2021)はその裏返しとして、引き継ぎが遅れると患者がリハビリ自体を受けられない「空白期間」が生まれるリスクを示しています。今日の実務で一つ確認するとしたら、担当患者の「要介護認定の有無・認定の有効期限・切り替え後のケアマネジャーの担当者名」の3点を記録で確認し、切り替えのタイムラインが関係者間で共有されているかをチェックしてみてください。
よくある質問
退院後すぐに要介護認定が下りていない場合、医療保険で訪問リハを始めてよいですか
要介護認定の申請を行っていても、認定が下りるまでの期間は医療保険での訪問リハビリが認められます。ただし認定通知が届いた時点で速やかに介護保険へ移行する必要があります。認定申請中の場合、介護保険のサービス開始日は認定の効力発生日(申請日まで遡って適用される場合があります)と連動するため、担当ケアマネジャーと医事担当者に「認定が下りたらすぐに連絡して切り替えスケジュールを組む」という流れを事前に取り決めておくことを推奨します。認定通知受領後に対応が遅れると、要介護認定があるにもかかわらず医療保険で算定を続ける誤算定期間が発生するリスクがあります。
訪問看護ステーションの理学療法士が訪問しているのですが、医療保険でも介護保険でも算定できると言われました。どちらを選べばよいですか
どちらでも「技術的に請求できる」場合でも、要介護認定がある利用者は例外条件に該当しない限り介護保険を使うのが原則です。「どちらかを選べる」のは非認定者か、例外条件に該当する認定者に限られます。制度の趣旨からも、利用者にとって「窓口負担が低い方を選ぶ」という判断基準は一見合理的に見えますが、例外条件なしに医療保険を選択することは算定誤りになります。訪問看護ステーションの請求担当者と利用者の認定状況・例外条件を共有し、正しい保険での算定を確認してください。
令和9年度の介護報酬改定で訪問リハビリの算定ルールは変わりますか
2026年9月時点では、令和9年度(2027年度)介護報酬改定の詳細は確定していません。社会保障審議会介護給付費分科会(第259回、2026年6月)では、訪問リハビリテーションの「診療未実施減算の算定率が約11%」「認知症短期集中リハビリ実施加算の算定率が0.75%と低調」「介護予防訪問リハの修了設定が76%でできていない」などのデータが示されており、次期改定の議論の論点になることが見込まれます。改定内容が確定した際には、必ず一次資料(告示・通知・疑義解釈)を確認し、本記事のような二次的な解説に頼るだけでなく原文を読む習慣を持つことを強く推奨します。
出典(すべてPubMedで確認済み)
- Nakagawa Y, Nishizawa K, Yoshida M, et al. Impact of Introduction Timing on Home-Visit Rehabilitation Outcomes for Older Adults Supported by the Japanese Nursing Care Insurance System. Cureus. 2025;17(10):e94092. DOI: 10.7759/cureus.94092(PubMed: 41209969)
- Konishi T, Inokuchi H, Yasunaga H. Services in public long-term care insurance in Japan. Ann Clin Epidemiol. 2023;6(1):1-4. DOI: 10.37737/ace.24001(PubMed: 38605915)
- Kojima K, Ujikawa T, Ono T. Immediate Effects of a Single Home-based Rehabilitation Treatment on Balance Performance and Toe-Grip Strength in Elderly Subjects Continuing the Same Rehabilitation Program. Acta Med Okayama. 2025;79(1):47-50. DOI: 10.18926/AMO/68361(PubMed: 40012159)
- Olivares-Tirado P, Tamiya N, Kashiwagi M. Effect of in-home and community-based services on the functional status of elderly in the long-term care insurance system in Japan. BMC Health Serv Res. 2012;12:239. DOI: 10.1186/1472-6963-12-239(PubMed: 22863362)
- Asaeda M, Saito T, Uchida S, et al. A cross-sectional survey of consistent rehabilitation through long-term care insurance in Japan: a questionnaire survey. Ann Med Surg (Lond). 2023;85(1):17-23. DOI: 10.1097/MS9.0000000000000199(PubMed: 36742127)
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※本記事は医療従事者向けの教育・情報提供を目的としたものです。診療報酬・介護報酬の算定に関する最終的な判断は、最新の告示・通知・疑義解釈に基づき、各施設の医事担当者・保険請求の専門家と確認の上で行ってください。本記事の内容は特定の算定可否を保証するものではありません。
